666円をどう見るか ── 5つの論点
総合 B+新電炉950〜1,055億円。2026年8月着工、2030年稼働。この間、営業CFの大半と現預金232億円、借入447〜498億円が設備に消える。
含み益の中核である船町48万㎡は、まさにその新電炉を建てる土地。2030年代まで換金不可能が確定した。
2030年度ROE 5%以上、2033年度6%以上。資本コスト8%を下回り続ける前提であり、理論PBRは0.7倍前後にとどまる。
資産価値 ── 含み益を数字で解体する
修正NAV 2,081円| 事業所 | 所在地 | 敷地面積 | 土地簿価 | 簿価単価 |
|---|---|---|---|---|
| 本社船町工場 | 大阪市大正区船町 | 479,491㎡ うち賃借 193,768㎡ | 60.65億円 | 21,227円/㎡ |
| 清水工場 | 静岡市清水区 | 102,736㎡ | 22.52億円 | 21,920円/㎡ |
| 都城工場 | 宮崎県都城市 | 30,609㎡ | 13.93億円 | 45,509円/㎡ |
| 提出会社 計 | — | 612,836㎡ | 97.10億円 | — |
| 子会社保有分 | 大阪市西区・大正区ほか | 非開示 | 129.03億円 | — |
| 連結 土地合計 | — | — | 226.13億円 | — |
船町工場は敷地の約4割(193,768㎡)を賃借(年間賃借料4.96億円)。貸主が連結子会社である可能性が高く、連結ベースではグループ保有分がさらに厚い可能性がある(有報上は面積非開示のため、本レポートでは自社所有285,723㎡のみを含み益計算に採用=保守的)。
| 大正区 工業地 平均 | 13.4万円/㎡ |
| 北恩加島1丁目 | 10.7万円/㎡(+8.4%) |
| 小林西2丁目 | 15.2万円/㎡(+6.3%) |
| 此花区 北港白津1丁目 | 13.9万円/㎡(+15.4%) |
| 此花区 常吉2丁目 | 9.3万円/㎡(+6.9%) |
| 大正区 路線価(工業地) | 10.7万円/㎡ |
| 静岡市清水区 工業地 平均 | 7.0万円/㎡ |
大正区の工業地は2016年36.3万円/坪→2026年44.3万円/坪(+22%)。臨海物流需要で此花区は年+15%の地点も。
還元利回り5%なら5.1万円/㎡、4%なら6.4万円/㎡。
→ 中立ケースの6.0万円/㎡はこの水準と整合的。
| 資産 | 面積/簿価 | 保守 単価→評価 | 中立 単価→評価 | 強気 単価→評価 |
|---|---|---|---|---|
| 船町工場(自社所有分) | 285,723㎡ 60.65億円 | 4.0万円/㎡ 114億円 | 6.0万円/㎡ 171億円 | 8.5万円/㎡ 243億円 |
| 清水工場 | 102,736㎡ 22.52億円 | 4.0万円/㎡ 41億円 | 5.5万円/㎡ 57億円 | 7.0万円/㎡ 72億円 |
| 都城工場 | 30,609㎡ 13.93億円 | 簿価据置 14億円 | 簿価据置 14億円 | 簿価据置 15億円 |
| 子会社保有地(賃貸不動産等) | 面積非開示 129.03億円 | 簿価+50% 194億円 | 簿価+100% 258億円 | 簿価+150% 323億円 |
| 土地含み益 合計(税引前) | 簿価 226億円 | 約137億円 | 約274億円 | 約425億円 |
| 同 税引後(実効税率30.6%) | — | 約95億円 | 約190億円 | 約295億円 |
子会社保有地の倍率根拠:2026年5月の枚方市賃貸不動産売却で譲渡益23.6億円、2026年8月の大阪市西区新町(駐車場)売却で譲渡益13.0億円。いずれも簿価が僅少とみられ、上期だけで36.6億円の譲渡益が発生している。簿価129億円に対する+100%(中立)はむしろ控えめな想定。
※有価証券報告書の「賃貸等不動産関係」注記(時価開示)を本レポート作成時に取得できなかったため、上記は公示地価・路線価・実際の売却実績からの推定値です。実数値は同注記でご確認ください。
| 自己資本(2026年6月末) | 1,107.9億円 |
| + 第三者割当 手取金 | +86.7億円 |
| + 土地含み益(税引後) | +190億円 |
| + 有価証券含み益(税引後) | +15億円 |
| 修正NAV | 約1,400億円 |
| ÷ 増資後株式数 | 67,269千株 |
| 1株修正NAV | 2,081円 |
有利子負債 83.8億円(短期25.1+長期58.8)
ネットキャッシュ 179.0億円=1株330円
株価666円の50%が現金。増資後は265.6億円=1株395円に。
土地含み益(税引後・中立)350円と合わせると680円>株価666円。
※ただし全額が新電炉の建設原資として拘束されている。
その他有価証券評価差額金 14.65億円(税引後)
→ 含み益 約21億円(税引前)
金額は土地に比べ小さいが、政策保有株式の縮減余地として資金計画の"予備弾"になる。
換金可能なのは子会社保有の賃貸不動産(簿価129億円)と政策保有株式のみ。会社の資金計画でも資産売却は「43億円(税引後)」に限定されている。
事業性・ニッチ性・ストック性
準ニッチ/ストック性は弱い| セグメント | 売上高 | 経常利益 | 利益率 | セグメント資産 |
|---|---|---|---|---|
| 鉄鋼 熱延コイル・厚板・建材・縞鋼板 | 1,458.6億円 | 42.2億円 | 2.9% | 1,365.6億円 |
| エンジニアリング 鋳造設備・舶用 | 16.9億円 | ▲0.2億円 | — | 21.4億円 |
| 不動産 中山興産(賃貸・売買) | 13.95億円 | 6.85億円 | 49.1% | 105.3億円 |
売上の98%が鉄鋼。ただし利益率で見れば不動産が突出(49%)で、経常利益の14%を売上1%の事業が稼いでいる。ここが唯一の本格的ストック事業。
| 企業 | 売上高 | 営業利益 | 営業利益率 | 時価総額 | PBR |
|---|---|---|---|---|---|
| 共英製鋼 | 3,151億円 | 170億円 | 5.4% | 914億円 | 0.42倍 |
| 東京製鐵 | 2,681億円 | 72億円 | 2.7% | 1,872億円 | 0.79倍 |
| 合同製鐵 | 1,918億円 | 98億円 | 5.1% | 532億円 | 0.32倍 |
| 大和工業 | 1,604億円 | 45億円 | 2.8% | 7,666億円 | 1.35倍 |
| 中山製鋼所 | 1,483億円 | 49億円 | 3.3% | 419億円 | 0.33倍 |
| 大阪製鐵 | 951億円 | ▲2.6億円 | ▲0.3% | 1,105億円 | 0.71倍 |
| 東京鐵鋼 | 725億円 | 120億円 | 16.6% | 525億円 | 0.82倍 |
| 中部鋼鈑 | 511億円 | 9.2億円 | 1.8% | 598億円 | 0.77倍 |
[2026/09/04終値で更新]PBRは合同製鐵0.32倍・中山0.33倍・共英製鋼0.42倍が最安クラスで、中山だけが突出して低いわけではない(当初版の「突出して低い」は誤り)。残る5社は0.71〜1.35倍に分布しており、セクター内は「0.3倍台の3社」と「0.7倍以上のその他」に二極化している。中位グループの0.7〜0.8倍まで訂正するなら株価は1,400〜1,600円相当。ただしROEの差(中山2.3% vs 合同・共英5〜8%)がディスカウントの合理的な説明にもなっている点は直視すべきで、同じ0.3倍台の合同製鐵がROE5〜8%であることは、中山の安さが「資産」ではなく「収益性」で説明されうることを示している。
新電炉プロジェクトと資本政策
総投資 最大1,055億円2030稼働
| 調達源泉 | 金額 | コメント |
|---|---|---|
| 営業キャッシュフロー | 約430億円 | 年107億円前提=やや強気 |
| 現預金(2026年3月末) | 232億円 | 手元流動性をほぼ全投入 |
| 日本製鉄の合弁出資 | 246〜273億円 | パートナーの資金 |
| 銀行借入 | 447〜498億円 | 財務レバレッジが一変 |
| 資産売却(税引後) | 43億円 | 不動産・政策保有株 |
| 第三者割当増資 | 87億円 | 阪和・ヨドコウ |
| 合計 | 1,485〜1,563億円 | うち株主還元 約80億円 |
コンティンジェンシープラン:コスト超過時は「追加資産売却・運転資本効率改善・その他成長投資の厳選」で対応(2026年度1Q説明会 質疑応答)。=含み益不動産は"最後の砦"として温存されている。
| 発行価額 | 666円(決議前日終値) |
| 阪和興業(新株発行) | 5,697,000株/37.9億円 |
| ヨドコウ(自己株処分) | 7,357,000株/49.0億円 |
| 調達総額/手取 | 86.9億円/86.7億円 |
| 払込期日 | 2026年10月上旬 |
| 希薄化率(議決権) | 24.12% |
| 阪和興業 持分 | 14.86% → 20.48% |
| ヨドコウ 持分 | — → 10.95% |
発行価額は直前1ヶ月平均639円に対し+4.23%のプレミアム。ディスカウント発行ではない点は既存株主にとって最低限の配慮。
一方で、連結(50%超)でもTOB(三分の一超の買付規制)でもない絶妙な水準に留めている。「まず取り込み、電炉が立ち上がってから次を考える」という段階的アプローチと読むのが自然。
| 指標 | 2024年度実績 | 2030年度目標 | 2033年度目標 |
|---|---|---|---|
| 経常利益 | 81億円 | 100億円以上 | 130億円以上 |
| EBITDA | — | 220億円以上 | 260億円以上 |
| ROE | 5.4% | 5%以上 | 6%以上 |
| 配当性向 | 38% | 30%以上(安定配当) | 30%以上 |
CO₂排出量は2030年度に2013年度比▲46%(1,158千t-CO₂)。電炉材は高炉比でCO₂約1/4。
理論PBR=(ROE − g)/(r − g)
=(6% − 1%)/(8% − 1%)=0.71倍
つまり会社計画が完全に達成されても、理論PBRは1倍に届かない。「PBR 1倍回帰」を投資テーゼにするのは論理的に無理があり、狙うべきは0.33倍→0.5〜0.7倍への訂正(株価1,000〜1,400円相当)。これが本案件の上値の理論的な天井。
財務・決算 ── 3期連続減益の中身
自己資本比率 70.5%| 年度 | 売上高 | 営業利益 | 経常利益 | 純利益 | 鋼材販売量 | 配当 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 2023年度 | 1,844億円 | 123億円 | 122億円 | 89億円 | 1,108千t | — |
| 2024年度 | 1,693億円 | 84億円 | 81億円 | 57億円 | 1,011千t | 40円 |
| 2025年度 | 1,483億円 | 49億円 | 48億円 | 24.6億円 | — | 14円 |
| 2026年度(会社予想) | 1,570億円 | 34億円 | 20億円 | 39億円 | — | 20円 |
| うち 2026年度1Q実績 | 383.0億円 | 6.4億円 (▲64.2%) | 6.1億円 (▲65.6%) | 19.1億円 (+76.6%) | — | — |
2026年度は経常20億円に対し純利益39億円。差は土地売却益(上期36.6億円)。本業だけを見れば経常20億円=実力EPS約24円で、PER 28倍相当。一方で2023年度の経常122億円ベースならEPS 146円=PER 4.6倍。「今のPER 9.3倍」は特別利益込みの見かけの数字であり、実力値の振れ幅が極端に大きい点に注意。
減益要因はほぼ100%スプレッド。スクラップ価格の高騰が国内需要と輸出価格に連動して先行し、販売価格転嫁が追いつかなかった。裏を返せば、転嫁が進めばそのまま利益が戻る構造。
| 総資産 | 1,571.6億円 |
| 現金及び預金 | 262.8億円 |
| 商品及び製品 | 137.6億円 |
| 土地 | 206.1億円 |
| 有形固定資産 | 482.3億円 |
| 投資有価証券 | 41.7億円 |
| 有利子負債 | 83.8億円 |
| 純資産 | 1,108.4億円 |
| 自己資本比率 | 70.5% |
| ネットキャッシュ | 179.0億円(1株330円) |
配当性向30%というルールに忠実なだけで、業績連動=減益なら減配という設計。「安定配当」を期待して持つ銘柄ではない。
ただし2026年度は経常20億円に対し20円配当(実力ベースの配当性向83%)と、増資引受先への配慮もあって踏ん張っている。
その後13年で自己資本比率は70%台、有利子負債84億円、利益剰余金768億円まで回復。「一度死んだ会社が、今度は自力で1,000億円の投資に挑む」という構図であり、財務規律に対する経営陣の意識は高いと見てよい。今回も借入偏重を避けるため87億円の資本性資金を入れている。
3年後(2029年度/2030年3月期)予想
期待値 814円| シナリオ | 確率 | 株価 | 3年累計配当 | 加重寄与 |
|---|---|---|---|---|
| Bear | 30% | 500円 | 30円 | 159円 |
| Base | 45% | 780円 | 60円 | 378円 |
| Bull | 25% | 1,250円 | 75円 | 331円 |
| 期待値(配当込み) | 100% | 814円 | 55円 | 868円 |
3年トータルリターン期待値 +30%(年率9.2%)。下値▲166円に対し上値+584円で、リスク・リワード比は約1 : 3.5。
②新電炉の進捗開示──「予算内」の一言が消えたら要警戒。
③追加の固定資産譲渡開示──含み益の実現ペース。
④阪和興業の持分変動報告──20.48%からの積み増しがあればBull確定。
| 項目 | 現在(2026年6月末) | Bear | Base | Bull |
|---|---|---|---|---|
| 自己資本 | 1,108億円 | 約1,225億円 | 約1,285億円 | 約1,330億円 |
| BPS(増資後67,269千株) | 1,776円(増資後) | 1,820円 | 1,910円 | 1,980円 |
| 有利子負債 | 84億円 | 約580億円 | 約520億円 | 約480億円 |
| 自己資本比率 | 70.5% | 約55% | 約58% | 約60% |
| 想定PBR | 0.33倍 | 0.27倍 | 0.41倍 | 0.63倍 |
3シナリオいずれもPBR 1倍には遠い。この銘柄で「PBR 1倍=2,000円」を狙うのは、新電炉が2030年に稼働しROEが二桁に乗る2030年代半ば以降の話であり、3年スパンの目標にはならない。
ダウンサイドリスク
正直に向き合う最終投資判断
2026.09 版資産と財務はA級、収益性とカタリストの時間軸はC級。この乖離こそがPBR 0.33倍の正体であり、投資の成否は「C級の項目がB級に改善するか」にかかっている。