Investment Research · 8841 · 東証スタンダード · 2026.09.06

株式会社テーオーシー (8841)
資産バリュー深堀レポート

賃貸等不動産 含み益 1,299億円(簿価591億 → 時価1,891億・3.20倍)/ 修正NAV 2,202円/株
現株価1,003円は修正NAVの45.6%・EV/不動産時価はわずか20%。大谷家グループ支配比率 約52%の非公開化オプション付き

B+
投資妙味あり(条件付き)
修正PBR0.46倍・下値はネット金融資産653円/株。
ただしROE2%台・還元方針なし・流動性薄。
「主力」ではなく「分割・中期」の銘柄。
現在株価(前提)
1,003円
時価総額 885億円/88.22百万株(自己株除)
修正NAV(会社開示時価)
2,202円
ディスカウント ▲54.4%
賃貸等不動産 含み益
1,299億円
1株あたり1,473円(税引前)
PBR / 修正PBR
0.85 / 0.46倍
BPS 1,179.94円(2026年3月期)
ネット金融資産
653円/株
現預金311億+有価証券274億−負債9億
大谷家グループ支配
約52%
MBO・非公開化オプションの源泉
01

なぜ今、テーオーシーなのか

5つの論点
Thesis 01 · 最重要
🏢
EVは不動産時価のわずか20%
20.1%
EV 381億円 ÷ 賃貸等不動産時価 1,891億円
時価総額885億円からネット金融資産504億円(現預金311億+投資有価証券274億−有利子負債9億−預り保証金72億)を差し引くと、事業EVは381億円。この価格で東京都心の1,891億円の不動産を買っている計算。
実質無借金自己資本比率85.2%
Thesis 02 · 最重要
📈
利益が構造的にインフレクション
×2.8倍
営業利益 24.6億(FY26/3)→ 70億(FY29/3中計)
TOCビルは2024年3月閉館→9月再開。入居率は全社81.7%・TOCビル単体65.9%と、まだ「戻り切っていない」状態。2027年3月期Q1は営業利益+139.7%。空室の穴埋めがそのまま利益になる局面。
Q1営業利益+139.7%中計を初めて開示
Thesis 03 · 追い風
🌏
東京オフィス市況が歴史的逼迫
1.95%
都心5区空室率(2026年7月・三鬼商事)
平均賃料は前年比+11.4%(23,287円/坪)。JLLは2028年末まで空室率0%台、2029年賃料44,000円/坪を予想。「空室を埋めたい会社」にとって最良の需給環境。浅草の地価はインバウンドで+20%超。
賃料+11.4%供給は建築費高騰で減少
Thesis 04 · オプション
🔒
大谷家52%支配=非公開化の器は既にある
51.95%
ニュー・オータニ24.08%+大谷興産16.56%+オオタニ・ファンド7.85%+大谷興産TO 3.46%
親会社等は非上場の(株)ニュー・オータニ(純資産1,134億円・当期純利益206億円)。2007年には800円でMBOを試みた実績。買い取るべき残り48%=1,003円で425億円。資金力・動機・器の三つが揃っている。
2007年MBO未遂東証の支配株主開示強化
Thesis 05 · しかし正直に言うと
⚖️
この銘柄の弱点は「安さ」ではなく「換金経路の不在」
① ROEが2.2%
FY26/3のROEは2.2%、中計を完全達成してもFY29/3で5.1%。修正NAV対比では2.4%。株主資本コストを下回る限り、理論上ディスカウントは正当化されてしまう。
② 中計に還元策がない
2026年5月の中計の資金計画は「新規事業設備投資280億円+その他64億円」。現預金311億円は株主還元ではなく不動産再投資に充てる方針。自社株買い・増配の記載なし。
③ 少数株主に権限がない
大谷家52%の下では株主提案も委任状争奪も通らない。2007年にダヴィンチが1,100円で挑んで失敗した歴史がそれを証明している。変化のトリガーは常に「向こう側」にある。

→ したがって本件は「割安だから上がる」のではなく、「稼働率回復による利益の3倍化」+「資産価値の年率成長」+「非公開化オプション」の3本立てで持つ銘柄。

一文投資テーゼ
テーオーシーは、東京都心5.8万㎡の土地を昭和期の簿価で抱えたまま、閉館明けのTOCビルの空室を歴史的な賃料上昇局面で埋めにいく「資産+業績回復」の二段ロケット。修正NAV2,202円に対し1,003円は▲54%。下値はネット金融資産653円/株と実質無借金のバランスシートに守られる一方、上値の解放は大谷家の意思に依存する ── "待てる資金"でのみ報われる案件。
02

土地含み益の精査 ── 公示地価ベースの積み上げ

簿価は昭和のまま
📌 会社は有報で賃貸等不動産(土地+建物)の期末時価を1,891億円(簿価591億円)と開示している。以下では、それとは独立に「主要な設備の状況」の土地面積・簿価と2026年公示地価から土地だけを積み上げ、開示時価の妥当性を検証する。
保有土地面積(主要物件)
58,359㎡
17,654坪・14物件(都内13)
土地簿価(借地権含む)
371億円
平均 約61万円/㎡
公示地価ベース推定(中立)
1,124億円
土地含み益 753億円
会社開示 賃貸等不動産時価
1,891億円
含み益1,299億円・簿価の3.20倍
物件別 土地評価 ── 面積・簿価・公示地価ベース推定時価(単位:百万円)
物件所在地土地面積㎡簿価簿価単価ベアベースブル取得・竣工
TOCビル品川区西五反田721,5223,50716.3万円24,75134,43649,5011970年竣工(星製薬工場跡地)
第2TOCビル品川区1,644140.85万円1,8912,6303,781簿価1,644㎡で14百万円
第3TOCビル品川区1,04544742.8万円1,3581,8812,612—
第5TOCビル品川区6372,860449万円1,7832,2292,866近年取得(含み益小)
TOC ANNEX品川区235977416万円9391,1741,526近年取得
TOC両国ビル墨田区30723375.9万円292368491—
大崎ニューシティ品川区大崎16,5474,00361.1万円18,33122,91429,4611987年1月竣工(大崎駅東口再開発)
TOC有明江東区有明318,08815,70986.8万円18,99323,51530,7502006年竣工(担保提供中)
赤坂インターシティAIR港区赤坂120300円1,0131,2151,620区分所有・土地簿価ゼロ
TOC CONNECT品川区81240295万円228285366—
ROXビル台東区浅草14,2394,00194.4万円9,32612,29416,5331986年開業
ROX2G台東区浅草152940576.5万円1,0591,3761,852—
ROX・3G台東区浅草12,3252,427104万円4,6496,0448,136—
ROXドーム台東区浅草195754757.2万円1,5312,0102,679—
合計58,35935,370—86,143112,370152,176—

出所:2026年3月期有価証券報告書「第3 設備の状況」の土地面積・帳簿価額。連結BS上の土地は30,037百万円+借地権7,076百万円=37,113百万円で、設備表の土地欄は借地権を含むものと推定。含み益はベア490億円/ベース753億円/ブル1,151億円(対37,113百万円)。

単価前提の根拠 ── 2026年 公示地価(円/㎡)
標準地最寄駅・用途公示価格前年比
西五反田1-2-3五反田100m・商業793万円+18.3%
西五反田2-29-9店舗事務所393万円+16.2%
西五反田2-9-1店舗319万円+18.6%
大崎1-342-1大崎250m・準工業456万円—
大崎3-296-18大崎90m・商業339万円—
大崎5-16-1五反田510m・準工業163万円—
西五反田4-552-10不動前400m・準工業129万円+14.2%
有明3-1-160国際展示場450m143万円—
浅草1丁目(駅前)浅草0m・商業915万円大幅上昇
西浅草2丁目TX浅草160m・商業323万円—
雷門1丁目田原町200m・商業204万円—

西五反田は5地点平均で前年比+17.2%。TOCビル(西五反田7丁目・大崎広小路至近)は駅前商業地と準工業地の中間に位置するため、ベース115〜160万円/㎡(大規模地補正後)を採用した。

評価のポイント ── なぜ簿価がここまで低いのか
第2TOCビルの簿価は1㎡あたり8,516円。1,644㎡の土地が14百万円で計上されている。周辺の公示地価は129〜393万円/㎡。実に150〜460倍の乖離。昭和期取得の典型例。
TOCビルは1970年竣工。星製薬の工場跡地に建てられた。取得は1960年代であり、地価は当時比で数十倍。21,522㎡の簿価が35億円(16.3万円/㎡)というのは、実質的に「土地はタダで持っている」状態。
換金実績がある。2017年にTOCみなとみらいを簿価364億円に対し665億円で売却し、約300億円の譲渡益を実現。「含み益は絵に描いた餅ではない」ことを同社は既に一度証明している。
含み益は毎年積み上がる。会社開示ベースの含み益は前期1,265億円→当期1,299億円と1年で+34.7億円(+2.7%)。地価上昇局面では「持っているだけ」で1株あたり年+39円(税引前)の価値が増える。
積み上げ vs 会社開示 ── どちらが保守的か
公示地価ベースのベース土地時価 1,124億円 + 建物簿価212億円 + 建設仮勘定32億円 = 1,367億円。

会社開示の賃貸等不動産時価は1,891億円で、差の524億円は「収益還元法で評価される建物・稼働価値」と「大規模地・角地等の個別補正」に相当する。

→ 土地だけを公示地価で置き換えても含み益753億円(1株854円/税引後592円)は説明できる。会社開示の1,299億円は過大とは言えない。
03

有価証券・現金・修正NAV

修正PBR 0.46倍
✅ 重要な整理:投資有価証券の含み益(税引後102億円)はすでにBPS 1,179.94円に反映済み。BPSに反映されていないのは不動産含み益1,299億円だけ。したがって「BPS+不動産含み益(税引後)」がそのまま修正NAVになる。二重計上の心配はない。
連結BSの資産サイド(2026年3月期末・百万円)
科目前期末当期末増減コメント
現金及び預金29,48731,148+1,661総資産の25.5%
投資有価証券23,02727,361+4,334時価評価済み
建物及び構築物(純額)19,65821,163+1,505耐震補強で増加
土地30,03730,037±0昭和期簿価
建設仮勘定3,4713,162△309新TOCビル関連
借地権7,0767,076±0—
総資産114,896122,226+7,330—
短期借入金+1年内返済862899+37実質無借金
長期借入金2600△260完済
長期預り保証金5,9347,218+1,284テナント増=稼働改善
その他有価証券評価差額金7,80210,200+2,398税引後
純資産100,824104,719+3,895自己資本比率85.2%

長期預り保証金が+12.8億円増えているのは、TOCビル再稼働に伴う新規テナント入居の裏付け。稼働率回復の"先行指標"として有効。

投資有価証券 273.6億円の中身
その他有価証券評価差額金は102.0億円(税引後)。実効税率30.62%で割り戻すと税引前含み益は約147億円、逆算した取得原価は約127億円。取得原価に対して約2.2倍の水準。

注目すべきは非上場の(株)ニュー・オータニ株式を8.4%保有している点。同社の純資産は1,134億円なので、簿価純資産ベースの持分だけで約95億円。非上場株は原則取得原価評価のため、ここにも簿価に出ていない価値が眠っている可能性がある(時価開示なしのため本レポートのNAVには算入していない)。

2023年4月公表の「政策保有株式の縮減方針」は2026年3月末までに目標達成。FY26/3は上場2銘柄の一部と非上場1銘柄を売却し229百万円の特別利益を計上。売却は継続する見込み=キャッシュ化の経路は生きている。

ネット金融資産で見た「実質の買値」
時価総額(1,003円 × 88.22百万株)88,482
− 現金及び預金△31,148
− 投資有価証券△27,361
+ 有利子負債+899
+ 長期預り保証金+7,218
実質EV38,090
賃貸等不動産 時価189,082
EV ÷ 不動産時価20.1%

ネット金融資産だけで1株653円(株価の65%)。株価1,003円のうち、不動産事業に払っている値段は実質350円/株にすぎない。

修正NAV ── サム・オブ・パーツ(単位:百万円、88,217,483株ベース)
項目金額1株あたり算定根拠
賃貸等不動産 時価189,0822,143円有報 賃貸等不動産関係注記(期末時価)
現金及び預金31,148353円連結BS
投資有価証券27,361310円時価評価済み
その他資産(棚卸・未収金等)4,58752円総資産−上記−不動産簿価
負債合計△17,506△198円借入金899・預り保証金7,218 他
不動産含み益に係る税効果△39,791△451円129,952 × 30.62%
非支配株主持分△627△7円連結BS
修正NAV(税引後)194,2542,202円現株価1,003円=NAVの45.6%
(参考)税効果を控除しない場合234,0442,653円同37.8%

検算:自己資本104,092+不動産含み益(税引後)90,161=194,253百万円と一致。実効税率は30.62%(2026年4月開始事業年度からの防衛特別法人税により実効税率は0.5〜1.0pt程度上昇するため、税引後NAVは20〜30円程度の下振れ余地がある)。

保守(公示地価×土地のみ)
1,772円
土地含み益753億円のみ算入
建物は簿価のまま据え置き
現株価はこの56.6%
最も硬い下限値
中立(会社開示時価)
2,202円
含み益1,299億円・推奨ベース
有報の賃貸等不動産時価を採用
現株価はこの45.6%
ディスカウント▲54.4%
強気(地価上昇+稼働正常化)
2,500円超
時価2,200億円想定
都心地価+5%/年の継続
稼働率92%での収益還元
ニュー・オータニ株の含みは別途

※保守ケースの1,772円=(自己資本104,092+土地含み益75,257×0.6938)÷88.22百万株。

04

事業性・ストック性・ニッチトップ性

売上の75%が賃貸収入
不動産事業 売上構成比
74.6%
113.1億円/151.6億円
全社入居率(期末)
81.7%
前期68.2%から+13.5pt
TOCビル入居率
65.9%
臨時使用含む・回復途上
保有営業用建物
12棟
五反田・大崎・有明・浅草・両国
セグメント構造(2026年3月期・百万円)
セグメント売上高前期比営業利益利益率ストック性
不動産事業11,308+19.6%2,38821.1%◎ 賃貸契約
リネンサプライ・ランドリー1,813+4.9%522.9%○ ホテル定期契約
その他(製薬・スポーツ・温浴・ビル管理)2,033+3.2%130.6%○ 会員制中心
連結15,155+15.2%2,46216.2%—

利益は事実上ほぼ全て不動産事業(97%)。リネン・製薬・温浴は「ニューオータニグループとのシナジー」と「浅草ROXの集客装置」としての位置づけで、単体の利益貢献は限定的。

ストック性の裏付け
賃貸収入(賃貸等不動産の営業収益)119.2億円
長期預り保証金(テナント保証金)72.2億円
賃貸等不動産の営業利益23.9億円

賃貸収益は解約予告期間付きの長期契約が中心で、景気変動に対する感応度は低い。一方で賃貸等不動産のNOI利回りは時価1,891億円に対し約2.0%(営業利益23.9億+減価償却13.2億)と極めて低い。これは「時価が過大」なのではなく「稼働率が低く収益が出ていない」ことの裏返しであり、稼働正常化の余地を示している。

ニッチトップ性 ── 一般オフィスビルと戦っていない
TOCビル=「東京卸売センター」:延床174,013㎡・駐車場750台。1967年設立の東京卸売センターを起源とし、卸売業のショールーム・常設展示・催事という独自アセットクラスを形成。グランドホール5,236㎡を含む展示ホール・会議室8室を擁し、都内最大級の常設展示・催事拠点。丸の内のAクラスビルとは需要層が重ならない。
TOC有明:18,088㎡の敷地に貸事務所・貸店舗・倉庫の複合。東京ビッグサイト至近で、展示会・イベント需要と物流需要の両取りができる希少立地。ただし2006年竣工の築浅物件で土地簿価も86.8万円/㎡と高く、含み益の源泉ではない。
浅草ROX(4施設・8,050㎡):浅草最大級の商業複合施設。インバウンド需要の直撃エリアで、2026年公示地価では浅草の商業地が+20%超の上昇。温浴施設「まつり湯」・フィットネスも自社運営し、集客を内製化。
大崎ニューシティ:大崎駅前再開発の中核。ニューオータニイン東京が入居し、親会社等グループとの垂直統合が効いている。
中計の柱にインバウンド宿泊:浅草地区中心にアパートメントホテル・ドミトリー・民泊施設を展開する方針。ROXの集客資産を宿泊に転換する構想で、これが新規投資280億円の主用途とみられる。
市場環境 ── 需給は10年に一度の逼迫
都心5区 空室率(2026年7月)1.95%
同 前年同月(2025年7月)3.16%
都心5区 平均賃料23,287円/坪
同 前年比+11.38%
JLL予想:空室率2028年末まで0%台
JLL予想:2029年賃料44,000円/坪
2028-29年新規供給(見直し後)年平均61万㎡

建築費高騰と人手不足で再開発が軒並み後ろ倒しになり、需給逼迫が長期化。「空室を抱えている会社」が最も報われる局面。ただしテーオーシーの物件は都心5区の一等地オフィスではないため、この賃料上昇率をそのまま享受できるわけではない点は割り引いて考える必要がある。

⚠️ 事業面の最大の弱点:会社自身がコーポレート・ガバナンス報告書で「直近5期の簿価ベースROICスプレッドはマイナスで推移」と認めている。取締役会で毎月ROIC/WACC・ROE/株主資本コストを比較報告しているにもかかわらず、国債金利上昇でWACCが上がりスプレッドはマイナス圏。資産は素晴らしいが、資本効率は同社最大の課題であり、それが54%のディスカウントの正体でもある。
05

最新決算と初の3ヵ年中期計画

営業利益2.8倍計画
FY26/3 売上高
151.6億円
前期比+15.2%
FY26/3 営業利益
24.6億円
前期比+73.6%
FY27/3 Q1 営業利益
10.1億円
前年同期比+139.7%
FY29/3 営業利益目標
70.0億円
FY26/3比 ×2.84倍
中期計画(2026年5月12日公表・単位:百万円)
項目FY26/3実績FY27/3予想FY28/3目標FY29/3目標
売上高15,15517,40019,30020,000
営業利益2,4623,8005,8007,000
経常利益3,2044,6006,6007,800
親会社株主帰属純利益2,3213,1004,5005,300
EPS換算26.3円35.1円51.0円60.1円
ROE(自己資本104,092比)2.2%3.0%4.3%5.1%

耐震補強工事の進捗率は2026年3月末84%→9月末97%→12月末100%完了予定。工事完了で安全性評価がⅡからⅢに上がり、テナント誘致のボトルネックが解消する。営業利益の急伸はここに紐づいている。

3ヵ年 資金計画(億円)── ここが最大の論点
資金の源泉金額資金の使途金額
期首現預金残高311新規事業設備投資280
税引後・配当後資金収支161その他設備投資64
借入金返済8
期末現預金残高120
合計472合計472

自社株買い・特別配当の記載は一切ない。ROE目標も明示されていない。現預金311億円は3年かけて120億円まで取り崩されるが、行き先は不動産・宿泊事業への再投資。「株主還元によるバリュー実現」は現時点の会社方針には入っていないと読むのが正しい。2027年3月期Q1で既に土地が300億→333億へ33億円増えており、投資は始まっている。

業績推移(5期・百万円)
期売上高経常利益純利益EPS自己資本比率
2022/316,3376,2423,10632.6983.7%
2023/315,6864,6433,25734.2885.8%
2024/313,7152,6645,12354.6086.2%
2025/3
TOCビル閉館の底
13,1521,9181,78719.3187.2%
2026/315,1553,2042,32126.3285.2%

2025年3月期がTOCビル閉館による業績の底。そこから回復基調に転じたところ。2024年3月期の純利益51.2億円は資産売却益によるもので、経常利益との乖離に注意。

2027年3月期 第1四半期(2026年8月4日発表)
売上高4,043百万円+16.7%
営業利益1,006百万円+139.7%
経常利益1,324百万円+113.9%
純利益892百万円+115.5%
不動産事業 営業利益997百万円+137.1%
自己資本比率86.1%—
現金及び預金27,075百万円△4,073
土地33,334百万円+3,297

通期予想(営業利益3,800)に対しQ1で1,006=進捗26.5%。第1四半期は例年下期偏重の同社にとって順当以上。現預金を土地に振り替える動きが早くも顕在化。

新TOCビル計画 ── 「延期」は評価が割れる
当初計画は地上30階・地下3階・高さ約150m・延床約276,000㎡の巨大再開発。着工時期は2033年頃 → 2036年以降へ再延期(2025年9月16日開示)。

理由は「建築費高騰、ビル賃貸市場の現況、耐震補強工事の投資効果を享受する観点」。

ネガティブに読めば:資本効率改善が10年遠のいた。ポジティブに読めば:数千億円規模の投資リスクと工事期間中の収益ゼロを回避し、現ビルで賃料を稼ぎながら地価上昇を待てる。バリュー投資家にとっては、後者の解釈のほうが合理的。
06

MBO・TOBカタリストと支配構造

残り48%が買収対象
大株主の状況(2026年3月31日現在)
順位株主名持株数(千株)比率区分
1株式会社ニュー・オータニ21,25124.08%親会社等・非上場
2有限会社大谷興産14,61516.56%大谷家
3株式会社オオタニ・ファンド6,9277.85%大谷家
4新菱冷熱工業株式会社4,4665.06%政策保有
5日本マスタートラスト信託銀行3,3273.77%信託
6有限会社大谷興産TO3,0593.46%2007年MBO主体の系譜
7日本生命保険相互会社2,8123.18%政策保有
8株式会社みずほ銀行2,1302.41%政策保有
9中本有紀1,6461.86%個人
10東映株式会社1,5201.72%政策保有
大谷家グループ計(1・2・3・6)45,85251.95%—
政策保有と推定される事業法人・金融機関10,92812.39%—

発行済株式総数93,849,352株(自己株式5,631,869株=6.00%を含む)。自己株除きで88,217,483株。株主数8,088名。外国人株式保有比率は10%未満。「その他の法人」が62.05%を占める、典型的な安定株主構造。

2007年 ── MBOとTOBの死闘(記憶すべき前例)
2007年5月
(有)オオタニファンドTOがMBOを開始。買付価格800円、2/3取得目標、総額約431億円。発表前日の株価は883円。
2007年4〜7月
ダヴィンチ・アドバイザーズが対抗TOB。当初1,100円、その後さらに引き上げ(一部報道では最終1,308円)。「MBO価格が不動産の含み益を反映していない」と主張。
結果:両方とも不成立。ダヴィンチは成立条件の45%を集められず、取引金融機関も応募せず。大谷家は買い増しで徹底抗戦。
2008〜2017年
エフィッシモ・キャピタルが最大16.74%まで買い進む。2017年、同社の自己株式取得に応募して3.65%まで縮小し実質撤退。
2017年
TOCみなとみらいを簿価364億円に対し665億円で売却。約300億円の譲渡益。含み益の現金化を一度は実行した。

この歴史から読み取るべき2つの結論:①敵対的TOBは大谷家の壁を越えられない ── 第三者による買収期待は捨てるべき。②一方で大谷家自身は「800円で全部欲しい」と思った実績がある ── 非公開化の動機は本物。

仮にMBOが実施されたら(試算)
TOB価格現株価比修正NAV比取得所要額(残48%=42.4百万株)
1,200円+20%54%508億円
1,400円+40%64%593億円
1,600円(最頻値想定)+60%73%678億円
1,800円+79%82%763億円
2,202円(NAV満額)+120%100%933億円

同社の現預金311億円+投資有価証券274億円=585億円と、実質無借金かつ担保余力の大きい1,891億円の不動産を考えれば、1,600〜1,800円のLBOは財務的にはまったく無理がない。ニュー・オータニ単体も純資産1,134億円・当期純利益206億円と資金力は十分。問題は「できるか」ではなく「やる気があるか」。

追い風① 東証の支配株主・関連会社上場への圧力
2026年6月、同社は「支配株主等に関する事項について」を開示。ニュー・オータニの議決権所有割合24.12%(直接24.11%+間接0.01%)を明示し、自社が同社の「関連会社」に該当すると認めた。東証は親子・関連会社上場に対するガバナンス開示を強化しており、この構造の是正圧力は年々高まる方向。是正の選択肢は「独立性強化」か「非公開化」の二択。
追い風② 資本コストを意識した経営の要請
同社は取締役会で毎月ROIC/WACC・ROE/株主資本コストを同業他社と比較報告し、「直近5期の簿価ベースROICスプレッドはマイナス」と自認している。PBR0.85倍(修正PBR0.46倍)の是正要請は東証スタンダード市場にも及ぶ。この自認は、いずれ何らかのアクションを取らざるを得ないことの裏返しでもある。
追い風③ 政策保有株式の縮減とアクティビスト余地
2023年4月公表の縮減方針は2026年3月末に目標達成。逆に、新菱冷熱・日本生命・みずほ・東映など保有側12.4%が「テーオーシー株を売る側」に回る可能性もある。外国人保有比率10%未満=アクティビストはまだ入っていない。エフィッシモが16.74%まで買った前例がある以上、再来の余地は残る(ただし52%の壁は変わらない)。
07

ダウンサイドリスク

正直に向き合う
① バリュートラップ ── 最大のリスク
ROEは2.2%、中計を完全達成してもFY29/3で5.1%、修正NAV対比では2.4%。株主資本コスト(7〜8%)を大幅に下回る状態が続く限り、DCF的には54%のディスカウントは「理論的に正しい」。含み益は税金・売却コスト・代替物件取得の困難さで割り引かれる。「安いまま20年」というのが最も確率の高いシナリオであることは否定できない。実際、2007年のダヴィンチTOB価格1,100円を、19年後の今も株価は下回っている。
② 還元方針の不在
中計の資金計画は現預金311億円を3年で120億円まで取り崩し、344億円を設備投資に投じるという内容。自社株買い・特別配当の記載はゼロ、ROE目標も未設定。配当は年10円据え置きで利回り1.0%、修正NAVに対する利回りは0.45%。「バリューを株主に渡す気があるか」という問いへの現時点の回答は否定的。
③ 金利上昇とキャップレート
同社自身が「国債金利上昇に伴うWACC上昇」を課題として挙げている。日本の長期金利がさらに上昇すれば、不動産の期待利回りが切り上がり時価そのものが下がる。賃貸等不動産の実質NOI利回りは約2.0%と極めて薄く、金利感応度は高い。地価上昇と金利上昇のどちらが勝つかが含み益の趨勢を決める。
④ TOCビル再稼働の未達リスク
TOCビル入居率65.9%。中計の利益2.8倍はこの穴埋めが前提。ただし同ビルは1970年竣工・延床174,013㎡の巨艦で、卸売・ショールームという需要は構造的に縮小トレンドにある。耐震補強は2026年12月完了予定だが、埋め戻しに時間がかかれば中計は容易に未達となる。テナント誘致競争力の検証は継続的に必要。
⑤ 流動性の薄さ
直近の出来高は概ね1日5万〜12万株、金額にして5,000万〜1.2億円程度。浮動株は実質46%だが、政策保有12.4%を除けば真の浮動株は3割強。買うのも売るのも時間がかかる。ポジションサイズは「1〜2週間で降りられる量」に限定すべき。信用取引や短期の損切りルールとは相性が悪い。
⑥ 株価はすでに5年来高値圏
過去5期の株価レンジは552〜924円。2026年に入って年初来安値795円→高値1,184円(5月7日)と急騰し、現在1,003〜1,030円。「万年割安株」がようやく動き始めた局面である一方、1,000円以上での売買実績が乏しく、需給の抵抗帯に入っている。PERは会社予想EPS35.1円に対し28.5倍と、業績面では割安ではない点に注意。
⑦ 情報セキュリティ
2025年12月にネットワークへの不正アクセスが発生し、2026年3月まで続報を開示。業績への重大な影響は開示されていないが、対処すべき課題に「情報セキュリティ対策強化」が明記された。再発時のレピュテーション・コストは無視できない。
⑧ 建築費高騰と大型再開発
新TOCビル(延床276,000㎡)が将来着工されれば、数千億円規模の投資と数年間の収益空白が発生する。2036年以降への延期は当面のリスク後退だが、消えたわけではない。中計の新規事業投資280億円も、宿泊事業という同社にとって新しい領域であり、実行リスクを含む。
⑨ 少数株主に打つ手がない
大谷家グループ52%。株主提案も委任状争奪も算術的に通らない。2007年にダヴィンチが1,100円を提示しても跳ね返された。MBOが実施される場合も、価格決定の主導権は買う側にある。「NAVの100%で買ってもらえる」という前提は置くべきではない。
📈 ポジティブ監視リスト
四半期ごとの入居率:TOCビル65.9%→80%超へ。決算説明資料で毎回開示される最重要KPI
長期預り保証金の増加:テナント契約の先行指標。72.2億円からの伸び
自社株買い・増配の発表:中計にない以上、出れば方針転換のシグナル
大量保有報告書の提出:アクティビストや事業会社の参入
政策保有株主(新菱冷熱・日生・みずほ・東映)の売却:浮動株化=需給変化
耐震補強2026年12月完了:ボトルネック解消の確認
賃貸等不動産時価の更新:毎年6月の有報で含み益の増減を確認
📉 ネガティブ監視リスト(撤退条件)
中計の下方修正:特にFY28/3営業利益58億円の未達方向の修正
入居率の再低下:TOCビルが60%台で頭打ちになる
賃貸等不動産時価の減少:2期連続なら金利・キャップレートの転換点
新規投資280億円の内容が不透明なまま実行:低採算案件への投下
長期金利の急上昇:10年国債が2.5%を超える局面
新TOCビル着工の前倒し発表:収益空白期の到来
3年経過して何も起きない:機会コストを認めて資金移動を検討
08

3年後(2029年3月期)シナリオと最終判断

2026.09 版
修正NAVディスカウント
▲54.4%
1,003円 vs NAV 2,202円
確率加重 期待株価(3年後)
1,298円
現在比+29.4%
トータルリターン(配当込)
+32.4%
年率+9.8%
リスク・リワード
1 : 3.9
下値▲203円 vs 上値+797円
Bear ── 確率30%
800円
▲20.2%/中計未達・金利上昇
FY29純利益 28億円(目標比53%)
含み益1,220億円で横ばい
NAV 2,194円/株価はその36%
BPS 1,235円・PBR0.65倍
入居率が70%台で停滞
Base ── 確率45%
1,350円
+34.6%/中計をほぼ達成
FY29純利益 53億円・EPS60.1円
含み益1,520億円(地価+4%/年)
NAV 2,492円/株価はその54%
BPS 1,296円・PBR1.04倍
PER22倍=業績評価に転換
Bull ── 確率25%
1,800円
+79.5%/非公開化 or 大型還元
MBO 1,600〜1,900円で提示
or 自社株買い+増配で再評価
含み益1,800億円・NAV 2,728円
株価はNAVの66%
アクティビスト参入も同帯
確率加重 期待株価の内訳
シナリオ確率FY29 NAV/株NAV比目標株価加重寄与
Bear:中計未達・金利上昇30%2,194円36%800円240円
Base:中計達成・緩やかな再評価45%2,492円54%1,350円608円
Bull:非公開化・大型還元25%2,728円66%1,800円450円
期待値100%2,461円53%1,298円+29.4%

3年間の配当30円を加えたトータルリターンは+32.4%、年率+9.8%。Bull確率25%は「3年以内にMBO・大型還元・アクティビスト参入のいずれかが起きる確率」として置いた。大谷家52%という構造と、中計に還元策がないことを踏まえた保守的な設定。

シナリオ前提の考え方
NAVの積み上げ:自己資本104,092百万円に3年分の利益を積み、年間配当882百万円を控除。含み益は税引後(30.62%)でNAVに加算。

ディスカウント率の設定:現在はNAVの45.6%。Bearは需給が緩んで36%へ拡大、Baseは業績評価への移行で54%へ縮小、BullはMBO相場水準の66%。いずれのケースでも「NAV100%への収れん」は想定していないのがこの銘柄の現実。

クロスチェック:Baseの1,350円はPER22.5倍・PBR1.04倍。業績目標を達成した資産株としては妥当なレンジで、NAVアプローチと矛盾しない。
下値の硬さ ── なぜBearでも800円で止まるか
① ネット金融資産653円/株(現預金311億+有価証券274億−有利子負債9億)。3年後も投資に回した分は不動産に変わるだけで、資産価値は消えない。
② 自己資本比率85〜86%・実質無借金。金融危機でも資本毀損リスクは小さい。
③ 公示地価ベースの土地だけで1,124億円(簿価371億円)。地価が3割下がっても含み益は残る。
④ 過去5期の株価下限は552〜595円だが、それは業績が底(FY25/3 純利益17.9億円)で、含み益も現在より小さかった局面。
最終投資判断 ── 1,003円は「妙味あり、ただし主力にはできない」
結論:買える。ただし理由を間違えないこと
1,003円は修正NAV2,202円の45.6%、EVは不動産時価の20%。資産面の割安性は疑いようがなく、公示地価で土地だけを積み上げても含み益753億円が説明できる。だが、この株が上がる主因は「割安の是正」ではなく、①TOCビル稼働率65.9%の埋め戻しによる利益2.8倍化、②年+2.7%で積み上がる含み益、③大谷家による非公開化オプションの3つ。この3つを買っている自覚がないと、待てずに投げることになる。
最大の弱点はROEと還元方針
ROE2.2%、中計達成でも5.1%、修正NAV対比2.4%。会社自身が「ROICスプレッドはマイナス」と認めている。さらに2026年5月の中計は現預金311億円を株主還元ではなく設備投資344億円に充てる計画で、自社株買い・ROE目標の記載がない。2007年のダヴィンチのTOB価格1,100円を19年後の今も株価が下回っている事実は、このディスカウントが「一時的な誤り」ではなく「構造」であることを示している。
執行方針 ── サイズと時間軸
株価は795円→1,184円→1,003円と、5年来のレンジ(552〜924円)を上抜けた直後。1,000円前後は需給の抵抗帯であり、900円割れの押し目は十分あり得る。出来高は日5万〜12万株と薄く、「1〜2週間で降りられる量」を上限に、900〜1,050円のレンジで3〜4回に分けて建てる。時間軸は3年。3年経って入居率も還元方針も動かなければ、機会コストを認めて資金を移す。
修正NAV
2,202円
現株価はその45.6%
3年後 期待株価
1,298円
年率+9.8%(配当込)
下値の床
653円
ネット金融資産/株
撤退ルール
3年
入居率・還元に動きなければ
一文要約
テーオーシーは、昭和の簿価で抱えた都心5.8万㎡の土地(含み益1,299億円)の上で、閉館明けTOCビルの空室を歴史的な賃料上昇局面で埋めにいく「資産+回復」の二段ロケット。1,003円は修正NAVの45.6%・EVは不動産時価の20%と割安性は本物だが、ROE2.2%・還元方針なし・大谷家52%支配という構造的な蓋が同時に存在する。投資判断はB+ ── 分割建て・3年の時間軸・降りられるサイズを守る限りにおいて、期待値は明確にプラス。