Investment Research · 5284 · 2026.08.06 前場終値2,230円で全面改訂

ヤマウホールディングス (5284・東証スタンダード)
統合投資分析レポート

2026/8/6 前場終値 2,230円(8/5終値2,283円比 ▲2.3%/PTS安値2,180円から戻す)
予想PER 6.00倍・配当利回り5.02%・EV/EBITDA 約2.5倍 / 九州インフラのニッチトップ × 国土強靱化20兆円 × 創業家48%の資本構成

結論:バリュー妙味は「あり」。ただし全力一括では拾わない
2,230円=PER6.00倍/利回り5.02%/調整後PBR0.84倍。
1Qの減益幅は通期の4%相当で、PTSの下落率とほぼ等価。
=「大バーゲン」ではなく「妥当な押し目」。分割エントリー推奨。
株価(8/6前場終値)
2,230
時価総額 約141億円(発行済6,306千株)
予想PER
6.00倍
現金調整後 5.17倍
配当利回り
5.02%
112円予想・配当性向30%
EV/EBITDA
2.50倍
EV約110億/EBITDA約44億
調整後PBR
0.84倍
土地含み益(推定)加算後BPS 2,650円
1Q営業利益
▲29.9%
通期進捗9.6%(前年13.7%)
01

本日の1Q決算をどう読むか

結論:構造悪化ではないが「無風」でもない
まず前提の訂正:「1Q▲27%」は経常利益▲26.8%のことです。営業利益は▲29.9%、純利益は▲25.7%。売上高は▲4.4%に留まっており、減収より減益幅がはるかに大きい=利益率の悪化が今回の本質です。
2027/3期 1Q(4-6月)実績前年同期増減率コメント
売上高4,280百万4,478百万▲4.4%大口案件の出荷減が主因
営業利益339百万484百万▲29.9%営業利益率 10.8%→7.9%へ悪化
経常利益410百万560百万▲26.8%営業外収益88百万が下支え
純利益263百万355百万▲25.7%EPS 43.57円
通期会社計画営業3,520百万据え置き修正なし=会社は挽回可能と判断
セグメント別|減益の犯人は1つだけ
セグメント1Q売上前年比1Qセグ利益前年差評価
コンクリート2次製品2,434▲11.6%316▲210ここだけで減益額の大半。利益率19.1%→13.0%
水門・堰(開成工業)913+21.9%81+99前年赤字→黒字転換。大型案件で製造効率改善
地質調査・土木(大栄開発)256▲40.7%▲23▲68期首受注残▲38.2%が響く。今期の弱点
橋梁伸縮装置(中外道路)536+25.2%▲64+16赤字幅縮小。受注残+166%で2H回復期待
点検・補修106+93.1%▲23+14成長分野。規模はまだ小
情報機器35▲37.6%7+1非中核
不動産69▲0.8%41+1安定。営業利益率60%
合計4,280▲4.4%339▲145▲278(コンクリ・地質)+130(その他改善)
季節性|1Qは「最も小さい四半期」である
ヤマウの利益は公共工事の年度末(1-3月)に極端に偏ります。有報でも「季節的変動のリスク」を筆頭リスクに明記。過去2期とも下期に営業利益の72〜74%を稼いでいます。したがって1Q単体の減益率は、通期のインプリケーションとしては割り引いて読むべきです。
四半期別 営業利益(百万円)1Q2Q3Q4Q通期下期比率
2025/3期4785091,2671,3113,56572.3%
2026/3期4844251,1371,4983,54474.4%
2027/3期339計画471下期計画 2,710計画3,52077.0%
では計画は届くのか|必要な残り9ヶ月のハードル
通期進捗率
9.6%
前年同期 13.7%
2025/3期 13.4%
残9ヶ月 必要売上
+6.9%
17,920百万
(前年同期16,765)
残9ヶ月 必要営業益
+4.0%
3,181百万
(前年同期3,060)
2Q単独 必要増益率
+10.8%
471百万必要
(前年2Q 425)
最大の注意点:会社は上期計画を営業益810百万(前年比▲11.0%)としており、1Q実績339は上期計画の41.9%消化。過去2期の1Q/上期比率は53.2%・48.4%だったため、上期計画すら「やや後倒し」の状態。11月上旬の2Q発表が次の関門で、ここで通期下方修正が出る可能性は無視できません(体感確率30〜40%)。
1Qの減益は株価にどれだけ織り込まれたか

1Qの営業減益額は145百万円。通期計画3,520百万に対してわずか4.1%です。仮にこの145百万がそのまま通期の未達となるだけなら、EPSは371円→約354円(▲4.6%)。
一方、株価はPTSで2,283→2,180円と▲4.5%下落しました。翌8/6の前場終値は2,230円で、下げの半分を戻しています。

つまり PTSの下げは「1Qの減益をそのまま素直に織り込んだ」水準であり、パニック的なオーバーシュートではありません。逆に言えば「異常な安値で拾える」局面でもない、というのが冷静な評価です。

ただし、①1Qがもともと通期の1割しかない四半期であること、②水門・橋梁・補修の3事業が明確に改善していること、③受注残合計が+4.8%(橋梁は+166%)であること、を踏まえると、下期の挽回シナリオ自体は生きています

02

バリュー投資の観点からの割安性

絶対値では明確に割安
予想PER
6.00倍
2,230円/EPS371.36円
PTS安値2,180円では5.87倍
現金調整後PER
5.17倍
ネットキャッシュ310円/株控除後
(有価証券も含めると4.75倍)
EV/EBIT
3.13倍
EV 110億/営業益35.2億
EV/EBITDAは2.50倍
正常化FCF利回り
17.4%
純益22.5+償却8.5-設備7.5
=約23.5億/株価換算387円
同業比較|「一番儲かっている会社が一番安い」
銘柄株価時価総額予想PERPBR利回り予想経常利益率自己資本比率
ヤマウHD (5284)2,230141億6.00倍1.01倍5.02%16.2%64.8%
ヤマックス (5285)
九州最大手・最も近い競合
1,486172億7.5倍1.42倍4.04%11.6%約40%台
ベルテクス (5290)
業界大手・全国
1,342737億14.0倍1.49倍2.98%13.9%
※ヤマウは2026年8月6日 前場終値2,230円ベース、他2社は8月5日終値ベース(株探)。ヤマウの経常利益率は2027/3期会社計画36.0億÷222億。ヤマックスは同27.7億÷239億。
ここが投資の核心:ヤマウは利益率が同業比で最も高く(経常16%台)、財務が最も強く(自己資本比率64.8%)、配当利回りも最も高いにもかかわらず、PER・PBRは最も低い。この歪みが説明できる合理的理由は「時価総額141億・1日売買代金約7,000万円という流動性の薄さ」と「九州偏重・公共依存」であり、業績の質ではありません。
株価水準別の指標マップ
株価時価総額(自己株除く)予想PER配当利回りPBR(1Q末BPS2,214円)調整後PBR(2,650円)位置づけ
2,618159億7.05倍4.28%1.18倍0.99倍2026/3期の年初来高値
2,450148億6.60倍4.57%1.11倍0.92倍ベースシナリオの目標
2,283138億6.15倍4.91%1.03倍0.86倍8/5終値
2,230135億6.00倍5.02%1.01倍0.84倍8/6 前場終値(本レポート基準)
2,180132億5.87倍5.14%0.99倍0.82倍8/5 PTS安値/BPS割れ突入
2,000121億5.39倍5.60%0.90倍0.75倍本格的な買い増しゾーン
1,900115億5.12倍5.89%0.86倍0.72倍通期▲10%下方修正でも許容される水準
1,52092億4.09倍7.37%0.69倍0.57倍2026/3期の年初来安値(=極端な下値)
長期の「利益体質の変質」を見落とさない

ヤマウの営業利益率は、2019/3期3.6% → 2021/3期7.0% → 2022/3期11.4% → 2026/3期16.7%と一直線に切り上がっています。売上原価率は77%→59%へ18ポイント改善。
これは景気循環ではなく、①価格転嫁の徹底、②持株会社化(2021年4月)に伴う構造改革、③九州の供給者集約による構造変化です。にもかかわらず市場のPERは依然として「利益率3%時代のバリュエーション(5〜7倍)」を当てている。ここが再評価余地の源泉です。

ただし注意:売上高は2021/3期267億がピークで、直近5年は185〜228億のレンジ。増益は一貫して「マージン改善」由来で、トップライン成長ではありません。マージン改善が一巡すれば増益も止まる、という構造的な天井が存在します。
03

土地含み益・有価証券・現金同等物の精査

推定値を含む
開示上の重要な前提:ヤマウHDの工場用地は持株会社(親会社)が保有し、事業子会社に賃貸する構造です。連結内取引のため、この土地は会計上の「賃貸等不動産」に該当せず、有報に第三者評価の時価は開示されていません(外部賃貸収入は年72百万円のみで重要性が乏しい)。以下の時価はすべて公示地価水準からの当方推定であり、確定値ではありません。
① 土地|親会社保有 42.3万㎡・簿価わずか15.9億円
物件(2026年3月末)面積(㎡)簿価(百万円)簿価単価(円/㎡)推定時価単価推定時価(百万円)推定含み益
本社(福岡市中央区舞鶴3丁目)557442794,4001,200,000668+226
福岡工場(福岡市早良区東入部)21,583823,78025,000540+458
北九州工場(福岡県小竹町)41,2732105,09110,000413+203
佐賀工場(佐賀市)71,4601231,72720,0001,429+1,306
大分工場(大分県臼杵市)56,5871662,9418,000453+287
高崎工場(宮崎県都城市)86,5281621,8707,000606+444
川南工場(宮崎県川南町)80,7282382,9456,000484+246
鹿児島工場(鹿児島県霧島市)64,1721692,62812,000770+601
親会社小計422,8881,5923,7655,363+3,771
子会社保有土地(連結差分)761×1.5想定1,142+380
連結合計2,3536,505+4,152(税前)
面積・簿価は第69期有価証券報告書「主要な設備の状況」。推定時価単価は当該市町村の工業地・商業地の公示地価レンジからの当方仮定。含み益は税引後(実効税率30%想定)で約29億円=1株あたり約480円
土地含み益のセンシティビティ(連結簿価23.5億円ベース)
時価/簿価倍率含み益(税前)含み益(税引後)1株あたり株価2,230円に対する比率妥当性の目安
1.5倍11.8億8.2億136円6.1%超保守(地方工業地の下落を厚めに見る)
2.0倍23.5億16.5億272円12.2%保守ケース
2.8倍(当方推定)41.5億29.1億480円21.5%ボトムアップ積み上げの中立値
3.5倍58.8億41.2億680円30.5%強気(佐賀・霧島の再開発期待込み)
ただし「使えない含み益」であることを忘れない。これらは全て稼働中の生産拠点であり、売却=事業停止です。したがってゴーイングコンサーン評価に単純加算すべきではありません。含み益が意味を持つのは、①ダウンサイドの床(清算価値)、②MBO/LBO時の担保余力、③工場再編に伴う一部売却——の3局面に限られます。
② 有価証券|含み益は既にBSに反映済み
投資有価証券(1Q末)
684百万
1株113円
前期末626百万から+58
その他有価証券評価差額金
387百万
税引後。税前換算約553百万
=取得原価比で約4.3倍
簿価に対する含み益率
約81%
既に時価評価済=
追加のサプライズ余地は小

上場有価証券は時価評価されているため、684百万円の簿価そのものが既に時価です。つまり「隠れた含み益」はここには存在しません。むしろ着目点は逆で、大株主に福岡銀行(3.66%)・鹿児島銀行(3.22%)・西日本シティ銀行(2.64%)・佐賀銀行(2.15%)と地銀4行が計11.7%を保有していること。政策保有株縮減の潮流下でこれらが売り圧力になるリスクと、逆に自己株取得の受け皿となって1株価値が高まる機会の両面があります。

③ 現金同等物・ネットキャッシュ
項目(百万円)2026/3末2026/6末(1Q)備考
現金及び預金5,1416,3911Qは3月完工分の売掛回収で季節的に厚い
短期借入金▲3,104▲2,925長期借入金はゼロ(前期に完済)
リース債務▲158▲150
ネットキャッシュ+1,879+3,3161株あたり 310円 〜 547円
+投資有価証券6276841株113円
実質手元資産(保守:期末基準)2,5064,0001株 423円(株価の19.0%)
④ 総合|調整後の1株価値
帳簿
2,214円
1Q末BPS
自己資本 13,413百万
PBR 1.01倍(@2,230)
+土地保守
2,486円
含み益2.0倍ケース
+272円
PBR 0.90倍
+土地中立
2,694円
当方ボトムアップ推定
+480円
PBR 0.81倍
+土地強気
2,894円
3.5倍ケース
+680円
PBR 0.75倍
※本レポートのKPI表示「調整後BPS 2,650円」は、上記中立ケースを保守的に丸めた値(自己資本13,413百万+土地含み益税引後2,640百万÷6,058,826株)です。
04

事業性・ニッチトップ性・ストック性

質は高いが「ストック性」は限定的
7セグメントの実力(2026/3期通期)
セグメント売上(億)構成比営業益(億)利益率ニッチ性・ストック性の評価
コンクリート2次製品
㈱ヤマウ/大分フジ/熊本ヤマウ
121.757.3%26.021.4%ニッチトップ 九州地盤の最有力。利益率21%は業界異常値で実質的な地域寡占+価格支配力の証左。ただし見込生産で受注残の開示なし=可視性は低い
水門・堰
開成工業㈱(熊本)
40.018.8%5.614.0%ニッチトップ 除塵設備・起伏ゲート等の専業。ストック性◎ 受注残24.1億+保守事業が付随。参入障壁が最も高い
地質調査・土木
大栄開発㈱(佐世保)
19.79.3%2.211.3%受注型 受注残7.8億(前期比▲38.2%)=今期の逆風要因。技術者依存でスケールしにくい
橋梁伸縮装置
中外道路㈱(神戸)
20.79.7%▲2.0赤字要注意 のれん3.6億+顧客関連資産2.2億。関西万博の交通規制で発注減。ただし受注残は+166%の18.0億=V字回復の余地
点検・調査・補修
㈱ヤマウ/メック㈱
8.43.9%2.023.7%構造成長 インフラ老朽化の直接受益。利益率最高。規模が小さいのが唯一の難点
情報機器1.80.8%0.420.9%金融機関向け。保守収入ありだが非中核・縮小傾向
不動産
持株会社本体
2.81.3%1.241.9%純ストック 大半はグループ内賃貸(2.04億)。実態は「土地の含み益の受け皿」
ニッチトップ性の評価|「強い」が「無敵」ではない
強さの根拠

・コンクリート2次製品の営業利益率21.4%は、同業ヤマックス(経常11.6%)を大きく上回る
・重量物ゆえ輸送コストが競争の壁=地理的寡占が成立しやすい典型的ローカル寡占ビジネス
・9社体制でコンクリ・水門・地質・伸縮装置・補修までインフラのバリューチェーンを内製
・M&Aによる事業拡張の実績(開成工業2012、大栄開発2015、中外道路2020)
・低炭素型コンクリート「CNEcon」(高炉スラグ55〜70%置換)で国交省の低炭素工事に適合済み

弱さ・限界

会社自身が有報で「九州は過剰供給構造・過当競争」と明記。今の高マージンは資材高の価格転嫁が効いた一時的局面の可能性
・売上の大半が公共事業依存。「中長期的には公共投資の縮減により漸減」と会社が明言
真のストック(継続課金)収入は水門保守・情報機器保守・不動産のみで全体の5%未満。「ストック性が強い会社」とは言えない
・受注残の開示があるのは3セグメントのみ(合計49.9億=年商の2.4ヶ月分)

受注残高(2026年3月末)=下期の可視性
水門・堰 24.1億前期比 ▲14.7%
橋梁伸縮装置 18.0億前期比 +166.3%
地質調査・土木 7.8億前期比 ▲38.2%
合計 49.9億前期比 +4.8%
受注残の中身が「赤字の橋梁伸縮装置」に大きくシフトしている点は諸刃の剣。中外道路が黒字化すれば通期のアップサイド要因、赤字のまま消化すれば逆風。1Qでは赤字幅が▲80→▲64百万へ縮小しており、方向は改善。
05

市場環境と中期経営計画

追い風は今年から本格化
Market 01 · 最重要
🏗️
国土強靱化 実施中期計画(第1次)
20兆円強
2026年度〜2030年度の5か年/2025年6月6日 閣議決定
初年度となる2026年度は約4.1兆円(うち国費約1.9兆円)を確保。老朽インフラ更新・防災インフラ整備が柱で、ヤマウの主力製品カテゴリと直撃で重なる。今期=計画初年度。
今期から始動5年間の可視性
Market 02
🌊
気候変動 × 老朽化の二重需要
構造的
豪雨頻発+高度成長期インフラの更新期
水門・堰、貯留浸透製品、点検・補修は景気ではなく物理的劣化と災害頻度で需要が決まる。ヤマウは貯留浸透(アクアポンド)・補修の双方を保有。
非景気循環
Market 03 · 逆風
📉
九州の公共投資は中長期で漸減
会社が明記
有報「対処すべき課題」より
「中・長期的には公共投資の縮減により漸減する方向」と会社自身が記載。国土強靱化は5年の時限措置であり、2031年以降の需要断崖は構造リスク
2031年問題人口減少
中期経営計画「Plan C³」(2024年4月〜2027年3月)の進捗
指標計画策定時の27/3期目標26/3期 実績27/3期 会社予想評価
連結売上高220億212.4億222億達成見込み ただし3期ほぼ横ばい=成長性は乏しい
連結営業利益27.5億35.4億35.2億大幅超過 目標を28%上回る。計画の保守性が高すぎた
営業利益率12.5%16.7%15.9%大幅超過 4.2ポイント上振れ
ROIC10.0%以上13.5%達成
PBR1倍超の定着1.04倍1.03倍辛うじて1倍 東証のPBR改善要請の直接対象からは外れる
ポジティブな読み方:中計最終年度である今期が終われば、2027年5月頃に次期中計(VISION2035の2nd Stage)が公表される見込み。現行計画の営業利益目標を28%超過した実績を踏まえれば、次期中計では大幅に高い数値目標+株主還元方針の見直しが出る可能性があり、これは9〜10ヶ月先の明確なイベントドリブン材料です。
長期業績の推移
年度売上(億)営業益(億)営業益率EPS(円)配当(円)自己資本比率有利子負債(億)
2019/32418.63.6%82.01127.2%56.2
2021/326718.77.0%203.24230.2%63.7
2023/318520.010.8%216.46540.9%47.2
2025/322835.715.6%393.611951.8%34.2
2026/321235.416.7%363.611061.2%31.0
2027/3予22235.215.9%371.411264.8%(1Q)
7年で営業利益率3.6%→16.7%、自己資本比率27%→61%、有利子負債56億→31億。財務の変質は劇的だが、売上は241億→212億と縮小している点は正直に直視すべき。
06

カタリスト|MBO・TOB・還元強化の現実性

MBOの「財務的条件」は極めて整っている
株主構成(2026年3月末)|買収防衛は完璧、逆にMBOは容易
株主保有株数(千株)比率属性
アリウェル株式会社(旧・福岡商事、福岡市中央区大名)88014.52%創業家系の資産管理会社とみられる(2025年12月に商号変更)
株式会社麻生4006.60%事業会社(セメント・福岡財界)
株式会社トクヤマ4006.60%事業会社(セメント大手)
明治安田生命保険3255.36%生保
福岡銀行 / 鹿児島銀行 / 西日本シティ銀行 / 佐賀銀行70711.67%政策保有株の縮減対象
日本カストディ銀行(信託口) / リックス2343.88%
上位10位 合計2,94648.63%+自己株式 247千株(3.92%)
所有者別:その他法人35.57%/個人38.39%/金融機関19.46%/外国法人5.30%。外国人比率が5%と極めて低く、アクティビストの介入余地は小さい
Catalyst 01 · 最有力
🏦
MBOの財務的ハードルが異常に低い
EV/EBITDA 約2.5倍
時価総額141億/EBITDA約44億/ネットキャッシュ19〜33億
40%プレミアム(3,120円)でも買収総額は約197億円。ネットキャッシュを差し引いた実質負担は約164億で、EBITDAの3.7倍。地銀・PEにとって典型的なLBOレンジで、資金調達は容易。安定株主が48%あるため賛同取得も現実的。
創業家14.5%ネットキャッシュ土地担保余力
Catalyst 02
📊
株主還元の強化余地
総還元37.2%
2026/3期:配当7.3億+自己株1.5億
配当性向は30%で固定運用。自己資本比率が61%→65%と積み上がり続けており、「配当性向40〜50%への引き上げ」「累進配当の導入」「大型自己株買い」はいずれも実行可能。次期中計(2027年5月頃)が発表タイミング。
次期中計待ち自己株3.9%保有
Catalyst 03
🔄
政策保有株の売却=自己株買いの受け皿
地銀11.7%
福岡・鹿児島・西日本シティ・佐賀の4行
金融庁の縮減要請で地銀は保有株を放出する方向。短期は需給悪化要因だが、会社が自己株取得で買い取れば1株価値は約12%向上。2025年9月に1.5億円の自己株買いを実行済みで、実績はある。
需給リスク還元機会
Catalyst 04
📈
中外道路の黒字化
受注残 +166%
18.0億円(2026年3月末)
前期は万博の交通規制で▲2.0億の営業赤字。この赤字が消えるだけで連結営業利益は+2億(+5.7%)。1Qで赤字幅が▲80→▲64百万に縮小しており改善は始まっている。
2H寄与
Catalyst 05
🗺️
次期中期経営計画(VISION2035 2nd Stage)
2027年5月頃
現行Plan C³は今期が最終年度
現行計画の営業利益目標27.5億を28%超過した実績を土台に、次期は営業利益40億超・ROIC15%級の目標が置かれる可能性。同時に還元方針の見直しが乗れば、バリュエーション再評価の最も明確な引き金。
9〜10ヶ月先
Catalyst 06 · 注意
⚠️
「MBOは可能」≠「MBOがある」
材料化ゼロ
観測報道・提案の開示は一切なし
現時点でMBO・TOBに関する具体的な情報は何も出ていません。PBRが1倍前後で東証の改善要請対象からも外れ、ROEも16%と良好なため、「上場していると困る」動機は弱い。あくまで「無料のオプション」として保有するのが正しい位置づけ
期待しすぎ禁物
仮にMBO/TOBが起きた場合の価格レンジ試算
評価手法前提1株価格2,230円比妥当性
市場プレミアム法直近株価(2,230円)+40%3,120円+40%日本のMBOの中央値レンジ
EV/EBITDA法4.5倍+ネットキャッシュ3,550円+59%非上場化案件の標準レンジ
調整後PBR法調整後BPS 2,650円×1.3倍3,450円+55%含み益を織り込んだ純資産価値
PER法EPS 371円×10倍3,710円+66%やや強気
収れんレンジ3,000〜3,600円+35〜+61%実現確率は低いが、起きた場合の上振れ幅は大きい
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ダウンサイドリスクの点検

最大の敵は「2Qの追い打ち」
リスク影響度発生確率内容と対応
2Q(11月上旬)での通期下方修正30〜40%上期計画810百万に対し1Q消化率41.9%(過去は48〜53%)。2Qで単独+10.8%増益が必要。未達なら通期見直しの可能性。想定株価インパクト ▲10〜15%
コンクリート事業のマージン反落営業利益率21.4%は業界異常値。1Qで19.1%→13.0%へ急落。価格転嫁の一巡+数量減で利益率が15%台に定着すると、通期営業益は28〜30億へ(EPS約300円→PER7.3倍)
中外道路(橋梁伸縮装置)の減損のれん358百万+顧客関連資産219百万=577百万。2期連続赤字なら減損の論点。ただし取得来累計のセグメント利益(のれん償却前)は15.2億でカバー範囲
地質調査の受注残▲38%顕在化済1Qで既に営業赤字転落(▲23百万)。通期で1〜2億の減益要因
流動性リスク常時1日売買代金約7,000万円・出来高3万株。まとまった金額は入るのも出るのも数日かかる。悪材料時のギャップダウンが大きくなりやすい。ポジションサイズで管理するしかない
信用買い残の重し小〜中7/31時点で買い残104.6千株(売り残ゼロ)。発行済の1.7%だが、薄い板に対しては上値の重石
地銀の政策保有株売却4行で707千株=11.67%。放出されれば需給悪化。ただし自己株買いや相対取引で吸収される可能性も
資材・エネルギー価格の再高騰会社が有報でリスク明記。セメント・鋼材・輸送費。過去は転嫁できていたが、公共単価の改定にはラグがある
2031年以降の公共投資断崖長期国土強靱化実施中期計画は2030年度まで。会社自身が「九州の公共投資は中長期的に漸減」と明記。5年超の長期保有では最大の構造リスク
自然災害による自社工場被災九州8工場に分散。包括保険付保済。むしろ災害は需要増要因でもある
下値の目安|どこまで下がりうるか
最悪
1,650円
▲26%
通期営業益28億へ下方修正
EPS 300円×PER5.5倍
減配(112→95円)を織り込む
弱気
1,900円
▲15%
通期営業益32億(▲10%)
EPS 333円×PER5.7倍
配当112円維持→利回り5.9%
中立
2,230円
現値
計画達成 EPS 371円
PER 6.00倍のまま横ばい
配当利回り5.02%
強気
2,600円
+17%
計画達成+PER7倍へ是正
中外道路黒字化が確認される
下期に受注残が積み上がる
下値を支える3つの床

①配当:112円が維持されれば、利回り6.0%で1,867円、6.5%で1,723円が理論的な吸収ゾーン。配当性向30%=EPS 373円が前提なので、大幅減益なら減配もありうる点は要注意。
②純資産:1Q末BPS 2,214円。土地含み益(推定480円/株)を加えた調整後BPSは約2,694円。1,900円は調整後BPSの0.71倍で、清算価値に対して明確に割安。
③ネットキャッシュ+有価証券:1株423〜660円。株価2,230円の19〜30%が現金性資産で裏付けられている。

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最終評価と行動プラン

結論
◎ 買う理由(強い)

1. PER6.00倍・現金調整後5.17倍・EV/EBITDA約2.5倍。絶対値で明確に割安
2. 配当利回り5.02%、減配は2026/3期の1回のみ(減益に伴う機械的なもの)
3. 自己資本比率64.8%・実質無借金。倒産リスクは事実上ゼロ
4. 同業で最も高い利益率なのに最も低いPER/PBRという説明困難な歪み
5. 国土強靱化20兆円強の5か年計画が今期スタート
6. 土地含み益(推定29億円・1株480円)とネットキャッシュが下値を支える
7. MBOの財務条件が揃いすぎている(無料のオプション)
8. 1Qで水門・橋梁・補修の3事業が明確に改善

△ 買わない/待つ理由

1. PTSの下落率▲4.5%は減益幅とほぼ等価=オーバーシュートではない(8/6前場は2,230円まで戻す)
2. 上期計画の消化率41.9%は過去比で明確に遅い。11月に第2の下落リスク
3. 増益は7年間ずっとマージン改善由来で、売上は縮小している
4. 真のストック収入は全体の5%未満。「ストック性の強い会社」ではない
5. 1日売買代金7,000万円の流動性リスク
6. 中外道路ののれん577百万の減損可能性
7. 会社自身が「九州の公共投資は中長期漸減」と明記
8. MBO/TOBは材料化ゼロ。期待値に織り込むべきでない

明日以降、拾う価値はあるか — 直接の回答

結論:拾う価値はあります。ただし「決算で下がったから買う」のではなく「PER6倍・利回り5%の株を分割で仕込む」という発想が正解です。

理由は3点。
①1Qは通期営業利益の1割しかない四半期で、減益額145百万は通期計画の4.1%に過ぎない。会社が計画を据え置いたのは、下期に7割超を稼ぐ事業構造上、まだ挽回可能と判断しているからです。
②ただしPTSの▲4.5%はその4.1%をほぼ正確に織り込んでいる。つまり「安く放置された」わけではなく「妥当に調整された」。実際、8/6の前場終値は2,230円と下げの半分を戻しており、飛びつく緊急性はありません。
③本当のリスクは11月の2Q。上期計画を達成するには2Q単独で+10.8%増益が必要で、これは1Qのトレンドとは逆方向。ここで下方修正が出れば1,900円前後まであり得ます。

したがって、「2,150〜2,250円(=現値2,230円を含む水準)で1/3、2Q決算を確認してから1/3、1,900円割れの押し目で1/3」という三分割が、リスクに対して最も素直な入り方だと考えます。

シナリオ別 目標株価(12〜18ヶ月)
ベア 25%
1,700円
▲24%
2Qで通期下方修正
コンクリのマージン反落定着
減配リスク顕在化
ベース 45%
2,450円
+10%
通期ほぼ計画線で着地
PER6.6倍へ小幅是正
配当112円+利回り4.6%
ブル 25%
3,000円
+35%
中外道路黒字化+計画超過
次期中計で還元強化
PER8倍へ再評価
MBO 5%
3,300円
+48%
EV/EBITDA 4.5倍水準
創業家+安定株主48%が賛同
確率は低いが上振れ幅大

確率加重の期待値:1,700×0.25 + 2,450×0.45 + 3,000×0.25 + 3,300×0.05 = 約2,443円。現在値2,230円に対して期待リターン +9.6%(配当5.02%を加えると +14.6%)。下方リスク▲24%に対して上方余地+35〜48%で、リスク・リワードは概ね1:1.5。悪くはないが、飛びつくほど圧倒的でもない、という水準です。

一文で言うと ——
投資タイプ
九州インフラのローカル寡占 × 割安バリュー × 高配当」型。カタリスト待ちの資産株ではなく、キャッシュフローで報われるタイプ。MBOは"当たれば儲かる無料オプション"として位置づけ、それを前提に買値を決めない。
監視すべき3点
11月上旬の2Q決算(上期計画810百万の達成可否)
コンクリート事業の四半期利益率(13%→回復するか)
2027年5月頃の次期中計と還元方針
最初の買い場
2,150〜2,250円
目標ポジションの1/3
本命の買い増し
1,900円割れ
PER5.1倍・利回り5.9%
撤退ライン
営業益30億割れ
=マージン構造の崩壊確認
総括
ヤマウHDは「業績の質に対して株価が明確に安い」典型的なスモールキャップ・バリュー。PER5.9倍・利回り5.1%・実質無借金・土地含み益480円/株という土台は堅い。一方で、今回の1Q下落は減益幅を正しく反映した「妥当な調整」であり、狼狽売りの拾い場ではありません。真の勝負どころは11月の2Q決算。急いで全力で買う銘柄ではなく、時間を味方につけて分割で積む銘柄——それが今日時点の適切な位置づけです。