01
結論 ── 稼ぐ本業と、買収の後始末
B++結論 01 · 事業
🦷
歯科用ハンドピース。歯科事業の利益率は33%
歯科医が歯を削るときに持つ器具が主力。2026年1〜6月は歯科・DCI・外科・機工の4事業すべてが2桁増収で、売上472億円(+20.5%)、営業利益100億円(+32.0%)。通期予想を8月に上方修正し、営業利益186億円(+32.4%)を見込む。
結論 02 · 値札
🏷️
PBR2.10倍は同業の中央値1.92倍より上
1年前は957円(52週安値)で、そこから1.6倍。直近5年のPBRのレンジは1.28〜2.86倍で、その真ん中あたりにいる。規則どおりの上値は1,380円(▲8.7%)で、いまの株価より下になる。上値が株価より下になった4社の中では、距離がいちばん近い。
結論 03 · 買収
🧾
138億円を減損した翌年に、のれんが3倍になった
2023年に買った米国DCI社ののれんを、2025年12月期に137.7億円減損して最終赤字になった。2026年3月に別の米国企業2社を買収し、のれんは54億円から179億円に増えている。借入金は339億円。買収で伸ばす会社で、その成否が利益を振らせる。
📌 当商会の採点はB++(幅・小/確度11点)。本業の強さと還元の方針は明確で、触媒は満点にした。ただ値札は同業の中央値より上で、買収の結果が1株純資産を削った前例がある。規則で数える上値がないので、ランクは伸びない。同じ確度のまま幅が「中」になるのは635円、「大」になるのは449円。
株価は2026年10月7日の終値1,511円(株探の確定値)。TOPIXへの新規採用は10月7日の取引終了後に公表された。2026年10月1日に1株を2株に分割しており、1株あたりの数字は分割後。貸借対照表は2026年6月末から、8月18日の自己株式取得(40.0億円)を引いた概算。
02
値札と貸借対照表
PBR2.10倍| 項目 | 数字 | 中身 |
|---|---|---|
| 株価(2026年10月7日終値) | 1,511円 | 52週の高値1,692円・安値957円 |
| 時価総額 | 2,787億円 | 自己株式を除くと2,472億円(16,361万株) |
| PBR | 2.10倍 | 1株純資産719円。直近5年のレンジは1.28〜2.86倍 |
| PER(会社予想) | 18.5倍 | 1株利益81.5円 |
| 配当利回り | 1.99% | 年30円の予想。配当性向は約37% |
| 現預金・有価証券 − 借入金 | 190億円 | 時価総額(自己株式を除く)の8%。現預金等529億円、借入金339億円 |
| 投資有価証券 | 50億円 | 上場株式など。金額は小さい。時価で計上済み |
| 清原式ネットキャッシュ比率 | 0.19倍 | (流動資産952億円+投資有価証券×70%−負債525億円)÷時価総額 |
📌 現預金等は約529億円あるが、借入金が339億円あり、ネットキャッシュは190億円(時価総額の8%)。総資産1,746億円のうち、のれんが179億円、顧客関連資産などの無形資産が145億円を占める。会社は手元流動性を月商の8か月分程度に保つ方針を掲げている。
03
稼ぐ力 ── 本業は33%、買収先は減損
今期は32%増益予想| 決算期 | 売上高 | 営業利益 | 純利益 | EPS | ROE |
|---|---|---|---|---|---|
| 2021年12月期 | 449億円 | — | 101.0億円 | 58.4円 | 12.7% |
| 2022年12月期 | 487億円 | 153.9億円 | 124.7億円 | 72.7円 | 14.4% |
| 2023年12月期 | 597億円 | 142.5億円 | 228.0億円 | 133.8円 | 22.4% |
| 2024年12月期 | 770億円 | 146.0億円 | 85.8億円 | 50.7円 | 7.3% |
| 2025年12月期 | 812億円 | 140.9億円 | ▲24.0億円 | -14.4円 | -2.0% |
| 2026年12月期(予) | 945億円 | 186.5億円 | 135.4億円 | 81.6円 | — |
1株利益は2026年10月の株式分割(1→2)後に直した数字。2025年12月期の最終赤字は、DCI社ののれんの減損137.7億円による(営業利益は140.9億円で黒字)。2026年12月期の予想は8月7日に上方修正されたもの。
事業別(2026年12月期の上半期)
| 事業(2026年1〜6月) | 売上高 | 前年同期比 | 営業利益 | 中身 |
|---|---|---|---|---|
| 歯科事業 | 269.6億円 | +14.6% | 89.6億円 | 歯科用ハンドピースなど。国内・北米・欧州・アジアのすべてで増収。利益率33% |
| DCI事業 | 121.6億円 | +23.6% | 6.7億円 | 2023年に買収した米国の歯科用チェア・ユニットの会社。値上げ前の駆け込みで増収。2025年12月期にのれん137.7億円を減損 |
| 外科事業 | 39.1億円 | +53.4% | 14.7億円 | 外科用の骨を削るドリル。2026年3月に米国の頭蓋骨穿孔器メーカーを買収 |
| 機工事業 | 42.1億円 | +28.6% | 11.4億円 | 工業用の切削・研削機器 |
📌 利益の9割近くを歯科事業が稼いでいる。DCI事業は売上が2番目に大きいが、利益は6.7億円にとどまり、前の期は通期で4.9億円の営業損失だった。上半期の増収率20.5%のうち、為替の影響を除くと12.3%である。なお、2026年から研究開発費を各事業に配る方法に変えたため、利益の数字は前の期までと単純には比べられない。
04
事業の強み ── 歯を削る道具で世界へ
海外売上88%| 項目 | 中身 |
|---|---|
| 製品 | 歯科用ハンドピース(歯を削る回転器具)と関連機器。ブランドはNSK。超高速で回る小さな軸受と回転の技術が核 |
| 地域 | 2025年12月期の売上812億円のうち、北米326億円、欧州213億円、日本94億円、アジア87億円、その他93億円。海外が88% |
| 顧客 | 歯科の世界的な卸であるHenry Schein向けが124億円(売上の15%) |
| 横展開 | 外科(骨を削るドリル)と機工(工業用の切削・研削)。外科は上半期+53.4%で、利益率は38% |
| 中期計画NV2030 | 2027年に売上880〜950億円・EBITDA220〜250億円、2030年に売上1,000〜1,200億円・EBITDA250〜330億円。ROE12%、総還元性向70%。今期の予想(売上945億円・EBITDA243億円)は2027年の目標にほぼ届く |
📌 歯科医が毎日使う器具で、世界中に売っている。歯科事業だけで見れば利益率33%の高収益の会社である。課題は、その現金を買収に回したときの成績で、チェア・ユニットのDCI社は買って2年で減損になった。
歯科用ハンドピースの世界シェアの数値は、今回読んだ開示資料(決算短信・有価証券報告書)には書かれておらず、当商会では確認できていない。
05
還元と資本政策 ── 総還元性向70%、分割と自社株買い
利回り1.99%| 項目 | 中身 |
|---|---|
| 還元方針 | 中期計画NV2030で総還元性向70%を基本方針に(有価証券報告書の配当政策には「総還元性向50%」の記載も残る)。ROEの目標は12% |
| 自社株買い | 2026年2月に150万株・25億円の枠を決議、8月7日に200万株・40億円へ拡大。8月18日にToSTNeT-3で1,244,100株(分割前)を1株3,215円・40.0億円で取得して終了 |
| 株式分割 | 2026年10月1日に1株→2株。投資単位は約30万円から約15万円へ |
| 配当(分割後) | 2025年12月期27円 → 2026年12月期30円(予想。中間30円は分割前、期末15円は分割後) |
| 買収 | 2023年8月にDCI International(米国)、2026年3月にAcra Cut社とIntech社(米国・外科)。後者の取得価額は非開示 |
| 買収への対応方針 | 導入していない(ガバナンス報告書) |
| 大株主 | ナカニシE&N 5.45%、中西千代氏5.25%、NSKナカニシ財団4.48%、オフィスナカニシ3.76%、中西英一氏3.37%、中西賢介氏3.34%、足利銀行2.73%(2025年12月末) |
📌 上方修正に合わせて自社株買いの枠を広げ、10日ほどで使い切った。「利益が増えたら還元も増やす」という動きが実際に見えている。一方で、同じ年に借入金を増やして買収もしており、還元と買収を同時に進めている。自己資本比率は2023年12月末の80.1%から69.6%に下がった。
06
TOPIX採用と買い需要 ── 売買代金の何日分か
当商会の概算2026年10月7日、JPX総研がTOPIXの初回定期入替の結果を公表した。新規に追加されたのは35銘柄(スタンダード23、グロース12)で、実施は10月30日。ナカニシはその一つである。
| 項目 | 数字 | 出所・前提 |
|---|---|---|
| TOPIXに連動する資産 ÷ 構成銘柄の浮動株時価総額 | 20.6% | 約160兆円÷775兆円(JPX総研の別紙)。割り算は当商会 |
| 追加基準の下限(浮動株時価総額) | 約610億円 | 累積比率の上位96%以内 |
| 浮動株時価総額(当商会の置き) | 約1,771億円 | 自己株式を除く時価総額×72%。大株主のうち固定的とみた株主(ナカニシE&N 5.45%、中西千代氏 5.25%、NSKナカニシ財団 4.48%、オフィスナカニシ 3.76%、中西英一氏 3.37%、中西賢介氏 3.34%、足利銀行 2.73%)を引いただけの粗い置き |
| 買い需要の概算 | 126〜366億円 | 下限は基準の610億円、上側は当商会の置きに20.6%を掛けた |
| 1日の売買代金に対して | 14〜42日分 | 直近40営業日の平均は1日8.7億円 |
| 基準日(8月31日)からの値動き | ▲3.3% | 1,562円 → 1,511円 |
📌 需要は売買代金に対して大きいが、この数字をそのまま値上がりの幅と読むことはできない。①連動資産のすべてが10月30日の引けで指数どおりに買うわけではない。②選定ルールは2024年9月に公表済みで、先回りの買いがある。③実施日を過ぎると買いは止まる。この会社は基準日から▲3.3%。8月の上方修正で付けた高値1,692円からは1割ほど下の位置にいる。
07
3年後の3ケース ── ベア・ベース・ブル
2029年3年後(2029年秋)の株価を1株純資産×PBRで3通りに置く。1株純資産は、いまの719円に3年分の内部留保(1株利益−配当)を足す。確率は当商会の置きである。
| ケース | 前提 | 3年後の1株純資産 | PBR | 株価 | 騰落 | 配当込み |
|---|---|---|---|---|---|---|
| ベア(25%) | 円高と関税で純利益82億円/年へ。新しい買収でも減損が出て1株あたり約100円(約164億円)を失う。PBRは直近5年の安値1.28倍 | 679円 | 1.28倍 | 869円 | ▲42% | ▲37% |
| ベース(50%) | 今期予想並みの純利益139億円/年が続く。PBRは医療機器10社の中央値1.92倍 | 878円 | 1.92倍 | 1,685円 | +12% | +18% |
| ブル(25%) | 2030年の目標(EBITDA250〜330億円)に沿って純利益172億円/年。PBRは2.5倍(直近5年の高値は2.86倍) | 914円 | 2.50倍 | 2,284円 | +51% | +59% |
📌 3ケースを確率で均すと1,631円(+7.9%)、3年分の配当を足して+14.6%。ベースで+12%、配当込みで2割弱。5社の中では均した数字がいちばん高い。ただし幅も大きく、下は「次の買収でも減損が出る」場合を置いた。この会社を見るときの論点は、本業ではなく買収の成績である。
08
検証済みレンジとランク
B++| 軸 | 点 | 根拠 |
|---|---|---|
| 🦦安さ | 1点 | PBR2.10倍は医療機器10社の中央値1.92倍より高い。PERは18.5倍。ネットキャッシュは時価総額の8%で、のれんと無形資産が336億円ある |
| 🦉財務 | 2点 | 自己資本比率69.6%。現預金等は約529億円あるが、買収で借入金が339億円に増えた。2025年12月期はのれんの減損で最終赤字 |
| 🦫モート | 3点 | 歯科用ハンドピースが主力で、歯科事業の営業利益率は33%。海外売上が88%で、北米・欧州・アジアに広く売っている。外科・機工へ「削る」技術を横展開 |
| 🐊触媒 | 3点 | 中期計画で総還元性向70%とROE12%を掲げ、2026年8月に通期予想を上方修正、自己株式40億円を取得、10月に1株を2株へ分割。買収への対応方針は導入していない |
| 🐝インカム | 1点 | 利回り1.99%。配当は分割後で27円→30円(予想)。還元の半分は自社株買い |
| 🦞リスク | 1点 | 2023年に買ったDCIで137.7億円の減損を出した翌年に、次の買収でのれんが54億円→179億円に増えた。米国の関税、為替、最大の顧客Henry Scheinが売上の15% |
| 確度 | 11点 | 18点満点。13点以上が「高」、8点以上が「中」 |
上値と下値
| 上値の置き方 | PBR | 株価 | いまから |
|---|---|---|---|
| 同業の中央値1.92倍(規則で採用) | 1.92倍 | 1,380円 | ▲8.7% |
| 直近5年の高値2.86倍 | 2.86倍 | 2,055円 | +36.0% |
| 下値の置き方 | 株価 | 下値 | 非対称比 | 幅 | ランク |
|---|---|---|---|---|---|
| 52週安値 | 957円 | ▲37% | -0.24 | 小 | B++ |
| PBR下限1.28倍×BPS | 920円 | ▲39% | -0.22 | 小 | B++ |
| PER下限8.56倍×予想EPS | 698円 | ▲54% | -0.16 | 小 | B++ |
| 床(1株あたり金融資産)(規則で採用) | 139円 | ▲91% | -0.10 | 小 | B++ |
上値は「1株純資産×min(直近5年のPBRの高値、同業の中央値)」。同業はテルモ 2.04倍、栄研化学 1.80倍、リオン 1.21倍、日本光電工業 1.46倍、シスメックス 2.34倍、JMS 0.26倍、マニー 2.53倍、オリンパス 2.83倍、朝日インテック 5.16倍、松風 1.55倍(株探・10月7日)。下値は、株価より下にある候補のうち最も深いもの。
📌 規則どおりの上値は1,380円で、いまの株価より▲8.7%。直近5年のPBRの高値は2.86倍だが、同業10社の中央値1.92倍のほうが低いので、規則では同業を採る。下値は規則どおり「最も深いもの」で1株あたり金融資産の139円になるが、借入金を引いた現金が少ないために極端に出ている。PBRの安値で置けば920円(▲39%)で、どちらでも幅は「小」。確度11点でB++。
| 株価 | 幅 | ランク | 備考 |
|---|---|---|---|
| 1,511円(いま) | 小 | B++ | — |
| 635円 | 中 | B++ | 52週安値957円より下 |
| 449円 | 大 | A- | 直近5年の安値878円(2025年4月・分割後)の半分ほど |
09
リスクと検算メモ
6つのリスク| リスク | 中身 |
|---|---|
| 買収とのれん | DCI社で137.7億円を減損(2025年12月期)。2026年3月の買収でのれんは54億円→179億円。取得価額は非開示で、採算は外から検証できない |
| 米国の関税 | DCI社の減損の理由は「米国政府による関税政策の影響で利益率が低下」。北米の売上は全体の4割 |
| 為替 | 海外売上88%。上半期の増収20.5%のうち8ポイントは為替。経常利益には為替差益11.3億円が入っている |
| 顧客の集中 | Henry Schein向けが売上の15% |
| 借入金 | 短期161億円、1年内の長期86億円、長期92億円の計339億円。短期借入金はこの半年で78億円から161億円に増えた |
| IRBANKの指標 | 分割の調整がずれ、同サイトのPBR・PERは実際の2分の1で表示されている。本資料では検算して2倍に直した |
検算メモ(沼底バリュー商会・2026年10月)
- 株価1,511円は2026年10月7日の終値(株探の確定値・分割後)。発行済184,436,400株(分割後)。自己株式は6月末の9,166,718株に8月18日の取得1,244,100株を足し、2倍した
- 6月末の現金及び預金563.76億円・有価証券5.22億円、借入金(短期161.19億円・1年内長期85.72億円・長期91.90億円)、のれん178.81億円、自己資本1,215.64億円は2026年12月期第2四半期決算短信(8月7日)。そこから自己株式の取得額40.0億円を引いた
- 通期予想(売上944.80億円・営業利益186.49億円・純利益135.44億円・1株利益81.55円)と配当は同短信と8月7日の開示(上方修正、株式分割、取得枠の拡大)。自己株式の取得結果は8月18日の開示
- のれんの減損137.66億円は2月12日の開示。Acra Cut社・Intech社の買収は3月5日の開示(取得価額は非開示)
- 5期の業績・ROE、地域別の売上、Henry Schein向けの売上、大株主、中期計画NV2030の目標は有価証券報告書(2025年12月期)。営業利益は株探の業績表
- IRBANKのPBR・PERは分割調整のずれで2分の1になっている。2025年12月期の高値2,619円(分割前)÷1株純資産1,368.88円=1.91倍で、表示の0.96倍の2倍と一致することを確かめた。直近5年のレンジ1.28〜2.86倍、PERの安値8.56倍はこの補正後
- 同業10社は当商会が選んだ医療機器(フクダ電子と同じ顔ぶれ)
- 当商会の置き:浮動株比率72%、連動資産の比率20.6%、3ケースの1株利益・PBR・確率、ベアで置いた追加の減損164億円
- 未確認:歯科用ハンドピースの世界シェア、2026年の買収の取得価額と採算、7〜9月の業績、JPXが使う浮動株比率、10月8日の終値以降の値動き