SaaSは本当に死んだのか?|AIで死ぬのは『浅いSaaS』だけ。一括売りが生んだ最大の歪みと、ERP・SI・規制ITという日本IT株の構造優位【バリュー投資コラム】
🦍 「終わったんですよ、SaaSは。AIが全部やる時代に、月額課金のソフトなんて誰が買うんですか。ソフトウェア株は全部売り。以上、解散」
🧑💼 「……テック番長。ずいぶん威勢がいいな。だがその『全部売り』こそ、今いちばん大きな歪みを生んでいる」
SaaSは本当に死んだのか|2026年初頭、市場を呑み込んだ『SaaSの死』というナラティブ
朝のミーティング室に、招かれざる客がいた。普段はバリュー商会を「オワコンの墓場」と笑うテック番長が、勝ち誇った顔で長椅子にふんぞり返っている。
🦍テック番長「言ったでしょう? SaaSはオワコンだって。2026年に入ってから、ソフトウェア株は数十兆〜数百兆円規模で吹き飛んだ。PERはピークから大幅収縮。好決算を出しても株価が下がる始末。僕はとっくに利確してAIに乗り換え済みですけど、まだ握ってる人がいるなら……ご愁傷さまです」
🦎日向(見習い)「SaaSって、サブスクで売るソフト企業をまとめた呼び方っすよね? あのジャンルまるごと、もう終わりってことっすか……?」
🧑💼沼田「落ち着け、日向。まず事実と物語を分けろ。今起きているのは『SaaSの死』ではない。『将来悲観の過剰織り込み』だ。価格に張り付いていた成長ストーリーが剥がれただけで、事業そのものが死んだわけではない」
🦉夜見「数字で言えば、消えたのは”PERという期待値の倍率”であって、“売上やキャッシュフロー”ではない。混同してはいけない。市場がパニックで両者を一緒くたに投げているなら、それは——」
🧑💼「そう。僕たちが大好きな『歪み』だ。市場が感情で叩き売る時、価格と価値はズレる。これは効率的市場仮説のほころびそのものだよ」
なぜここまで売られたのか|AIが突きつけた3つの恐怖
🦫堀田「投げ売りには理由がある。怖がるのも無理はない。AIがSaaSに突きつけた恐怖は、整理すると3つだ」
🦍「ほら、堀田さんもわかってる。①シート課金の崩壊ですよ」
💡 AIがSaaSに突きつけた3つの恐怖
① シート課金モデルの崩壊懸念 SaaSの売上=人数 × 単価。AI導入で人数が減れば、シート(席)が減り、売上構造そのものが縮む。
② UI価値の崩壊 AIがアプリを直接操作するなら、人間は画面を触らない。『使いやすい画面』という価値が不要化する。
③ 内製化の加速 AI+ノーコードで、わざわざSaaSを買わずに自前で作れてしまう。
🦎「うわ、3つとも刺さってますね……これは売られても仕方ない気が」
🧑💼「恐怖の中身は正しい。だが、その恐怖が全部のソフトウェア企業に等しく当てはまるか——そこを問わずに投げているのが、今の市場の致命的な誤りだ」
市場の致命的な誤り|SaaSを『一括で』売っている
🧑💼「ここが今日の核心だ。市場は今、SaaSという言葉でひとくくりにして、良いものも悪いものも区別せず一括で売っている」
🦉「『SaaS』という言葉が広すぎるんだ。請求書発行の単機能ツールも、製造業の基幹システムも、国家防衛のシステムも、ぜんぶ同じ”ソフトウェア株”のバケツに放り込まれている。AIの影響度がまったく違うのに、同じ恐怖で売られている」
🐊待伏「……一括処分された箱の中に、本来とんでもなく価値のあるものが紛れている。私の好物の匂いがしますね」
🧑💼「待伏の言う通りだ。これは良い会社と良い株は別物という話の、裏返しでもある。市場が”悪い株”として投げたものの中に、“良い会社”が混ざっている。選り分ければいい」
正しい分類|消えるSaaS・厳しいSaaS・強くなるIT
🦫「では選り分けよう。AIの時代に、ソフトウェアは3層に分かれる」
| 分類 | 代表 | AIの影響 |
|---|---|---|
| 🔴 消える | 単機能SaaS | 機能ごとAIに飲まれる。代替が容易 |
| 🟡 厳しい | CRM(顧客管理) | UI依存が強く、価値の一部が削られる |
| 🟢 強くなる | ERP・SI・規制IT | データと業務理解が堀になり、むしろ深まる |
🦎「あれ? 同じ”SaaS的なもの”でも、消えるどころか強くなるグループがあるんすか?」
🦫「そこが肝だ。日向、AIが奪えるレイヤーと、奪えないレイヤーがある」
AIが奪うのは『UIレイヤー』だけ|データを持つ者が最後に勝つ
🦫「シンプルに言う。AIが奪うのはUI(操作画面)のレイヤーだけだ。その下にあるものは奪えない」
💡 AIが奪うレイヤー / 奪えないレイヤー
🔴 UI(操作画面) → AIが代替する。消える
🟢 データ(蓄積された業務情報) → 奪えない。残る
🟢 業務理解・導入実装(SI) → 奪えない。むしろAI導入の主役になる
🦉「企業の基幹データは、何十年もかけて積み上がった『その会社の業務そのもの』だ。AIはそれを処理する道具にはなれても、ゼロから所有することはできない。データを持つ者が、最後に勝つ。」
🦍「……くっ。たしかにChatGPTに『うちの30年分の生産管理データを今すぐ寄越せ』とは言えないな」
🧑💼「その通りだ、テック番長。AIが賢くなるほど、食わせる良質なデータと、それを業務に組み込むSIの価値はむしろ上がる。AIは堀を埋めるのではなく、堀の中にいる者の武器になる」
日本IT株の構造優位|規制の遅さとレガシーが『堀』になる皮肉
🦎「でも、それって米国のテック大手のほうが強いんじゃ……日本のITって”遅れてる”イメージっすけど」
🧑💼「日向、ここが面白いところだ。その『遅れている』が、この局面では優位に化ける」
🦉「皮肉な話だが、整理するとこうだ」
💡 日本IT企業の”逆説的”な強み
① 規制:導入が遅い 金融・防衛・公共は規制が厳しく、AIの無秩序な侵食が起きにくい。堀が時間で守られる。
② レガシー:データが蓄積している 長年の業務システムに、AIが喉から手が出るほど欲しい良質な業務データが眠っている。
🦫「『枯れている』『重い』と馬鹿にされてきたレガシーが、AI時代には奪われないデータ資産に変わる。これは日本市場そのものの歪みとも地続きだ——世界が見落としている場所に、価値が放置されている」
🦍「外資のグロース投資家は、この”地味さ”を理解できずに一括で投げる。……それ、お前らの取り分が増えるだけじゃないか」
🧑💼「ようやくわかってきたな」
個別で見る|オービック・NEC/富士通・菱友システムズ・日鉄ソリューションズ
🦉「抽象論で終わらせない。具体名で当てはめる」
🟢 オービック(ERP)
🦫「中堅企業の基幹システムに深く食い込んでいる。一度ERPを入れた会社は、業務ごと乗り換えるコストが膨大で抜けられない。これは典型的なスイッチングコストの堀だ。AIで剥がれるどころか、固着する」
🟢 NEC / 富士通(社会インフラ)
🦉「自治体・通信・公共といった社会インフラを担う。規制と信頼性の塊で、スタートアップやAIが一夜で代替できる領域ではない。地味だが堀は深い」
🟢 菱友システムズ(防衛・宇宙IT)
🦫「ここは我々が銘柄紹介で取り上げた菱友システムズ(4685)だ。F-15改修・P-1哨戒機・H3ロケットの基幹ITを三菱重工グループ内で準独占。国家機密レベルの参入障壁で、外部SIerもAIも入り込む余地はゼロ。AIの影響は最小、むしろ効率化で利益率が上がる側だ」
🟢 日鉄ソリューションズ(NSSOL/SI+業務理解)
🐊「そして私の本命が日鉄ソリューションズ(2327)。SIと深い業務理解で顧客に食い込み、AI導入を”される側”ではなく”導入する主体”になれる。しかも純資産の40%が0.2%で眠るバランスシートのスラック(緩み)という別の歪みまで抱えている。SaaS恐怖で一括に投げられた今、最強クラスのバリューです」
🦎「同じ”IT株”でも、AIに食われる側と、AIで儲かる側で、こんなに違うんすね……」
投資戦略|UIを避け、データ・規制・SIを狙う
🧑💼「戦略はシンプルだ」
| 避ける | 狙う | |
|---|---|---|
| 対象 | UI依存の浅いSaaS | データ・規制・SIに堀を持つ企業 |
| 理由 | AIに機能ごと飲まれる | AIが賢くなるほど価値が上がる |
| 市場の今 | 恐怖で全部投げられている → ここに歪み | 一緒に投げられている → ここが拾い場 |
🦉「PERの収縮局面では、優良企業まで一緒に安くなる。PERで測るバリュー投資の出番だ。“倍率が縮んだ”のと”価値が消えた”を取り違えた銘柄こそ狙う」
🦍「……認めたくないが、筋は通ってる。全部売りは、たしかに雑だったかもしれん」
まとめ|浅いSaaSだけが死ぬ。一括売りは最大の歪み=最大のチャンス
🧑💼「整理して終わろう」
- SaaSは死んでいない。死んだのは価格に張り付いていた物語だけだ
- AIが奪うのはUIレイヤー。データ・業務理解・規制・SIはむしろ堀が深まる
- 市場の致命的な誤りは、SaaSを一括で売っていること
- 消えるのは『浅いSaaS』、強くなるのは『深い企業』(ERP・SI・規制IT)
- 日本IT株は、規制の遅さとレガシーという”地味な堀”を持つ
🦎「一括売り=最大の歪み=最大のチャンス。選り分けた者だけが報われる、と」
🧑💼「そうだ。恐怖が全部を平等に安くする時こそ、不平等に良いものを拾う時間だ」
🦍「……ちっ。俺は俺でNVIDIA見てくるわ。でも今日の話、悪くなかった」
🐊「逃げ足の速いこと。さて、私は箱の中身を選り分ける作業に戻ります」
💬 沼田課長より 「『SaaSは死んだ』という一言で全部を投げる市場は、いつだって僕たちの取引相手だ。死ぬのは浅いSaaSだけ。データと業務と規制に守られた深い企業は、AI時代にむしろ強くなる。大事なのは”SaaSか否か”ではなく、“奪われない堀があるか”。一括で売られた箱の中から、それを選り分けることだ」
本記事はバリュー商会の投資方針・実践経験をもとにした情報提供であり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。