ネットネット株は死んだのか?|グレアムの超割安投資法が『掘り尽くされた』理由と、今も残る歪みの探し方【バリュー投資の教科書②】
🦞 「ネットネット株は死んだ、とよく言われる。だが正確には違う。死んだのではない。掘り尽くされたんだ」
「グレアムの手法、もう通用しないんすよね?」
🦎日向(見習い)「守田さん、ネットネット株ってもう絶滅したんすよね? ネットで”ネットネットは死んだ”ってよく見るっす。古い手法っしょ?」
🦞守田「……日向さん。その言葉、半分は正しくて、半分は決定的に間違っています」
🦎「うっ、また半分っすか」
🦞「大事なところだから、最初に定義から入りましょう。ネットネット株とは何か、言えますか?」
🦎「えーっと……すごく安い株?」
🦞「ふわっとしすぎです。きちんと定義があります」
そもそも「ネットネット株」とは何か
🦞「ネットネット株の定義はこうです」
💡 ネットネット株の定義
流動資産 − 総負債 > 時価総額
(現金・売掛金・在庫など”すぐ換金できる資産”から借金を全部引いても、なお時価総額を上回る)
🦦河内「つまり、会社を今すぐ解散して資産を換金するだけで、株を買った値段以上が返ってくるって状態ですよね。事業価値をタダ以下で買えるという」
🦞「その通り。工場も、ブランドも、将来の利益も、全部おまけでついてくる。理論上ありえないほどの割安です」
🧑💼沼田「“安全余裕(マージン・オブ・セーフティ)“の極北だな。下値が資産で守られている」
バリュー投資の父・グレアムの十八番だった
🧓野村(創業者・ふらりと登場)「グレアムの話なら、儂がしよう」
🦎「創業者!」
🧓「ベンジャミン・グレアム——バフェットの師匠であり、バリュー投資の父じゃ。あの男はこのネットネット戦法を徹底的に使い倒した。1930〜50年代、世界恐慌で叩き売られた株の中から、解散価値以下の銘柄を機械的に拾い集めた」
🦞「感情を一切挟まず、“流動資産−負債>時価総額”を満たす銘柄を分散して大量に買う。個別企業の良し悪しすら深く問わない。数字だけで安全余裕が確保されているから、束で買えば負けにくい」
🧓「実際、高いリターンを叩き出した。理屈はシンプルじゃ。価値より圧倒的に安いものを買えば、儲かる。それだけよ」
若き日のバフェットも、グレアムと一緒にネットネットを漁っていた
🦎「でもそれって、グレアム”だけ”の話っすよね? 今の投資家はやってないわけで……」
🧓「いや。ここが面白いところでな。あの若きウォーレン・バフェットも、師匠グレアムの下で、夢中でネットネットを漁っていたのじゃ」
🦎「えっ、バフェットが!? 優良企業を長期保有する人ってイメージっすけど」
🦞「それは後年のスタイルです。初期のバフェットは、徹底したネットネット・ハンターでした。彼自身が後に”シケモク投資(cigar butt investing)“と呼んだやり方です」
🦫堀田「道端のシケモク(吸い殻)には、まだ”あと一服”ぶんが残っている。タダ同然で拾えば、その一服はまるまる儲け——という比喩だ。冴えない会社でも、解散価値以下で買えば確実に取れる。若きバフェットはこれで資産を爆発的に増やした」
🧓「あの男のキャリア初期のリターンが化け物じみていたのは、この”掘れば出る”時代に、グレアム仕込みのネットネットを片っ端から拾えたからじゃ」
バフェット「資金が少なければ、今でも年50%稼げる」
🧑💼沼田「そして重要なのが——バフェットは”シケモク投資を卒業した”とよく言われるが、手法が無効になったから卒業したわけじゃない」
🦞「その通りです。彼が大型優良株にシフトした最大の理由は、運用資金が大きくなりすぎて、小さなネットネットを買っても全体のリターンに効かなくなったからです」
🧓「あの男自身が、はっきり言っておる」
🧓 バフェット曰く:「もし私が100万ドル程度の小さな資金を運用しているなら、フル投資で年50%は稼げる。小さな非効率な銘柄を漁れるからだ」
🦎「年50%!? あのバフェットが!?」
🦞「そう。手法が死んだのではなく、彼の”サイズ”が大きくなりすぎただけ。数十兆円を動かす今のバフェットには、時価総額数十億円のネットネットは小さすぎて手を出せない。買い切れないし、買っても誤差にしかならない」
🧑💼「逆に言えば——資金量が小さく、かつ供給さえあれば、バフェットは今でもネットネットを漁っているはずだ。本人がそう公言している。つまりこの手法は、大資金には不向きでも、個人投資家にとっては今なお最強クラスということだ」
🦫「巨大ファンドが手を出せない小型のネットネット級銘柄——そこは、資金の小さい個人投資家にだけ残された”聖域”なんだ。バフェットですら、今は入ってこられない領域だ」
🦎「資金が少ないことが、まさかの武器になるとは……」
🦞「条件は二つ。①運用資金が小さいこと、②そういう割安がまだ供給されている市場であること。——この二つが揃う場所が、どこか分かりますね?」
🦎「……日本!」
🦞「ご名答です」
では、ネットネットは「死んだ」のか?
🦎「でも、今そんな株ほとんど無いっすよね? やっぱり死んだんじゃ……」
🦞「ここが今日の核心です。結論から言います」
🦞 ネットネットは死んだのではない。掘り尽くされたのだ。
🦎「掘り尽くされた……?」
🦞「考えてみてください。グレアムが手法を公開し、世界中の投資家がそれを学び、コンピュータで一斉にスクリーニングする時代になった。そんな”誰でも分かる極端な割安”が、放置されるはずがない」
🦫堀田「見つかった瞬間に買われて、割安が消える。手法が有効すぎて広まった結果、対象そのものが市場から枯れた。手法が無効になったんじゃない。原石が拾い尽くされたんだ」
🦞「だから正しい理解はこうです」
| よくある誤解 | 正しい理解 |
|---|---|
| ネットネット手法はもう通用しない | 手法は今も有効 |
| だから割安投資は古い | 減ったのは”供給”のほう |
| グレアムは時代遅れ | 原理は普遍、ただ原石が掘り尽くされただけ |
アメリカ・欧州では枯れた。だが日本には、まだ残っている
🦎「でも守田さん、“掘り尽くされた”なら、結局どこの国でももう無いってことっすよね?」
🦞「——そこです。日向さん、ここが今日いちばん伝えたいところ。“掘り尽くされた”のは、主にアメリカと欧州の話なんです」
🦦河内「えっ、日本は違うんですか?」
🦞「全然違います。なぜ米国でネットネットが枯れたか、思い出してください。情報が速く・広く・正確に行き渡る市場ほど、極端な割安は一瞬で消える」
🦉夜見「米国市場はその典型です。英語という世界共通言語で開示され、無数のアナリストが隅々までカバーし、アクティビストが割安を見つけ次第すぐ攻める。割安が”発見されてから消えるまで”が極端に速い」
| 市場 | ネットネットの状況 | なぜそうなるか |
|---|---|---|
| 🇺🇸 アメリカ | ほぼ絶滅 | 英語開示・高カバレッジ・アクティビスト飽和で一瞬で消える |
| 🇪🇺 欧州 | かなり希少 | 同上。機関投資家が網羅的にスクリーニング |
| 🇯🇵 日本 | まだまだ残っている | 言語の壁・カバレッジ不足・現金溜め込みで歪みが残存 |
🧑💼沼田「第1回で話した”歪みが供給され続ける市場”——あれがここで効いてくる。米国で割安を消す”発見の速さ”が、日本では構造的に働かないんだ」
🦫堀田「言語の壁で海外勢が読めない。アナリストが小型株を追わない。会社は現金を抱え込んだまま放置する。——米国なら即座に潰される歪みが、日本では何年も生き残る。だからグレアムが1930年代に拾っていたような”解散価値以下”に近い銘柄が、日本の小型株にはまだゴロゴロしている」
🦞「純粋なネットネット(流動資産−総負債>時価総額)すら、日本のスタンダード市場の小型株を丹念に探せば、今でも見つかることがあります。グレアムの時代のアメリカが、いま日本に再現されている——そう言ってもいいくらいです」
🦎「アメリカで枯れた金脈が、日本にはまだ埋まってる……! 俄然やる気出てきたっす!」
🦞「そういうことです。“ネットネットは死んだ”は、アメリカ人の感想。日本の個人投資家にとっては、まだ現役の狩場なんです」
「掘り尽くされた」なら、今どこを掘るのか
🧑💼「ここで終わったら、ただの歴史の授業だ。投資家として大事なのは”じゃあ今どうする”だ」
🦞「ネットネットの純粋形はほぼ枯れました。でも、その隣接領域にはまだ歪みが残っています」
- 準ネットネット:流動資産だけでなく、保有不動産の含み益・投資有価証券まで含めれば解散価値が時価総額を超える銘柄
- ネットキャッシュ株:現金−有利子負債が時価総額の大半を占める”実質タダで事業がついてくる”会社
- 情報の隅っこ:英語開示がなく、アナリストが誰も見ていない小型株(第1回で話した”歪みが供給され続ける”領域)
🦦「純粋なネットネットが無理でも、“資産の裏付けで下値が固い割安株”なら日本にまだゴロゴロありますもんね。東海エレクトロニクスとか、まさに現代版ネットネットの発想です」
🦞「そうです。グレアムの精神——“価値より圧倒的に安いものを、安全余裕を確保して買う”——は、形を変えて今も生きている。死んだのは”純粋形”だけ。原理は不滅です」
まとめ:グレアムの遺産は、形を変えて生き続ける
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| ネットネットの定義 | 流動資産−総負債>時価総額(解散価値以下) |
| グレアムの実績 | 機械的・分散で高リターン。安全余裕の極北 |
| なぜ消えた | 手法が広まり原石が掘り尽くされた(無効化ではない) |
| 今どう活かす | ネットキャッシュ株・含み益型・情報の隅っこへ応用 |
| 普遍の原理 | 価値より圧倒的に安く、安全余裕を確保して買う |
💬 守田退三より 「“ネットネットは死んだ”と切り捨てる人は、手法と供給を混同している。手法は今も正しい。ただ、誰でも見つかる極端な割安が掘り尽くされただけだ。なら、まだ掘られていない隅っこを探せばいい。英語開示のない小型株、現金を抱えて放置された会社——グレアムの安全余裕という思想は、日本市場でこそ今も有効だ」
続き:バフェットはなぜ日本の総合商社を買ったのか|5大商社は『現代版ネットネット』だった(バリュー投資の教科書③)——その”安全余裕”を、あのバフェット自身が日本でどう実践したのかを解説します。
この連載:①なぜ日本株は万年割安に放置されるのか|歪みが供給され続ける市場(バリュー投資の教科書①)
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本記事はバリュー商会の投資方針・実践経験をもとにした情報提供です。投資判断はご自身の責任でお願いします。