銘柄紹介|兼房(5984)— 国内シェア35.6%の刃物メーカー。清原式1.34倍の中身を6段に分解したら、現金は0.44倍だった【PBR0.34倍・配当利回り2.95%】
🦦 「割安発掘担当の河内です。9月に21社を並べたとき、あと3ポイントで落とした会社があります。兼房です」
沼田「チャートの位置だけが届かなかった会社だな」
河内「はい。清原式で1倍超、ニッチトップの裏付けもありました。今日はあの『1倍超』の中身を、もう一段細かく数えます」
日向(見習い)「細かくって、1.25倍は1.25倍じゃないんすか」
河内「同じ1倍でも、現金で1倍と在庫で1倍では、硬さがまるで違います」
🧾 値札|時価総額112億円、自己資本比率82%
夜見「財務分析担当の夜見です。2026年10月6日の終値と、6月末の貸借対照表から」
| 項目 | 数字 |
|---|---|
| 株価(10/6終値) | 780円 |
| 時価総額 | 112億円 |
| PBR/PER(会社予想) | 0.34倍/12.0倍 |
| 予想配当利回り | 2.95%(年23円) |
| 現預金/借入金 | 78億円/31億円 |
| 純資産 | 317億円(自己資本比率81.7%) |
| 清原式ネットキャッシュ比率 | 1.34倍 |
夜見「兼房は工業用の機械刃物を作っています。木を切る丸鋸、合板を剥く刃、鉄を切るコールドソー、紙を断つ刃。機械に取り付けて使い、切れなくなれば研ぎ直すか買い替える消耗品です」

🔬 ネットキャッシュを6段で数える
河内「清原式は『流動資産+投資有価証券×70%−負債』を時価総額で割ります。兼房は1.34倍。ここを、硬いものから順に積み直しました」
| 数え方 | 金額 | 時価総額比 |
|---|---|---|
| ① 現預金 − 借入金 | 47.5億円 | 0.44倍 |
| ② ①+投資有価証券の7割 | 52.5億円 | 0.48倍 |
| ③ 現預金+売掛金 − 負債全部 | 49.2億円 | 0.45倍 |
| ④ ③+在庫の半分 | 92.2億円 | 0.85倍 |
| ⑤ 流動資産 − 負債全部 | 139.9億円 | 1.29倍 |
| ⑥ 清原式 | 144.8億円 | 1.34倍 |
日向「①と⑥で3倍違うじゃないですか」
河内「差を作っているのは、売掛金42億円と棚卸資産86億円です。流動資産211億円のうち、在庫だけで41%あります」
守田「リスク管理担当の守田だ。在庫86億円は、年間の売上原価のおよそ7か月分にあたる。清原式1.34倍は嘘ではないが、その6割は在庫と売掛金でできている」
夜見「中身は刃物の製品と、超硬合金や鋼材などの材料です。流行で価値がなくなる在庫ではありません。会社は滞留分を規則的に評価減しています。ただ、現金と同じ硬さでもありません」
河内「当商会が下値の床に使うのは②に近い数え方で、1株あたり380円。株価の49%です。在庫を半分だけ足した④なら664円になります」
沼田「9月の記事では3月末の数字で『1.25倍』と一行で書いた。その内訳が、これか」
🪚 シェア|国内35.6%、ベニヤナイフは9割超
堀田「モート担当の堀田だ。シェアは会社のIR資料を3期分さかのぼった」
| 時点 | 兼房の国内シェア | 出どころ |
|---|---|---|
| 2020年度 | 28.2% | 名証IRセミナー資料(2022年3月) |
| 2024年度 | 29.9% | アナリスト向け説明資料(2025年6月) |
| 2025年度 | 35.6% | 同(2026年6月) |
堀田「日本機械鋸・刃物工業会に入っている会社の単独売上で比べた数字で、首位だ。2025年度は加盟社が1社減って全体の売上も減っているから、35.6%には分母が縮んだ分が入っている。そこは割り引いて読め」
日向「品目だと、もっと高いのがあるんすか」
堀田「合板を薄く剥くベニヤナイフは、国内シェア90%以上と会社資料にある。平刃・精密刃具・丸鋸の3種類を全部作っているのは世界で兼房だけ、とも書いている」
夜見「9月の記事で触れた国の選定も、原文を確かめました。経済産業省の『2020年版グローバルニッチトップ企業100選』です。選ばれた製品は、鉄鋼切断用の超硬コールドソー『Ferro Max』でした」
堀田「経産省の資料に面白い一文がある。兼房は専用の切断機まで自分で開発し、機械メーカーと組んで『機械と鋸を一緒に』広めた。いまも大半の機械メーカーに採用されている。刃が機械とセットで現場に入っているから、刃だけ他社に替えるのは手間がかかる」
日向「プリンターとインクみたいな関係っすね」
堀田「近い。しかも兼房は米国やブラジルに再研磨の拠点を持っていて、売ったあとも顧客の現場に残る」

🦍 乱入|テック番長「刃物? レーザーとAIの時代に?」
テック番長「おいおい、刃物だって? いまどき鉄はレーザーで切るし、検査はAIがやる。明治創業のローテクに、どんな未来があるんだよ」
日向「また来た」
堀田「番長、数字を見ろ。兼房の売上の43%は金属関連、41%が住宅関連だ。自動車部品の素材を切る現場では、コールドソーが従来の5〜10倍の速さで切っている。レーザーに置き換わるどころか、新中計の重点はEV用電池と半導体向けの刃具だ」
番長「ふーん。でも世界で勝ててるのか?」
堀田「……そこは痛いところだ」
| 売上高の順位 | 2019年度 | 2024年度 |
|---|---|---|
| ライツ(独) | 1位・301億円 | 1位・465億円 |
| ロイコ(独) | 3位・175億円 | 2位・230億円 |
| TKM(独) | 4位・163億円 | 3位・223億円 |
| 兼房 | 2位・190億円 | 4位・209億円 |
番長「2位から4位に落ちてるじゃねえか!」
堀田「ユーロ高で円換算が膨らんだ分が大きい。だがそれを引いても、兼房の売上は5年で1割増、ドイツ勢は3〜5割増だ。差を詰められてはいない」
夜見「利益にも出ています。営業利益率は直近6期で2.9%から9.0%のあいだ、平均5.5%。ROEは3%台です。国内では首位でも、それが高い利益率にはなっていません」
沼田「番長の『ローテク』は外れだが、『世界で勝てているのか』は当たっている。国内首位という言葉だけで安心するな、ということだ」
番長「へへ、たまには役に立つだろ」
シェアの高い会社を見るとき、番長の一言から拾った点検は3つ。
- そのシェアは、どの範囲(国内・世界、加盟社だけか市場全体か)の数字か
- 順位は5年前と比べて上がったか、下がったか
- シェアの高さが、営業利益率とROEに出ているか
💰 配当と自己資本|性向35%、現金は工場へ
花岡「配当担当の花岡です。方針は、年15円を下限に連結配当性向35%をめど。2024年5月に30%から引き上げました」
| 決算期 | 1株配当 | 配当性向 |
|---|---|---|
| 2022年3月期 | 29円 | 30% |
| 2024年3月期 | 22.5円 | 35% |
| 2026年3月期 | 26円 | 35% |
| 2027年3月期(予) | 23円 | 36% |
花岡「利益に素直に連動する配当です。利回りは2.95%。ただ、純資産に対する配当の比率は1.15%しかありません。自己資本比率82%の厚さに比べると、返している額は小さい」
夜見「現金の行き先を5期分足しました。営業で稼いだのが93億円、設備に使ったのが82億円。稼ぎの9割近くが、ベトナム工場と本社の物流センターに回っています。配当はその間に約18億円でした」
日向「自社株買いは?」
待伏「イベント担当の待伏です。取締役会決議による自社株買いは、直近の有報で『該当事項なし』。自己株は41万株のまま動いていません」
待伏「大株主も見てください。大口興産という会社が16.55%。ほかに渡邉・太田・信太の姓の個人が7名並び、合わせて52%です。そのうちお一人は代表取締役、もうお一人は取締役です。ガバナンス報告書は『支配株主なし』としていますが、外から還元を求める力は働きにくい構成です」
守田「配当性向を上げ、資本コストの開示も更新した。会社は一歩は動いた。だが、安さを直すいちばん直接の手段にはまだ手を付けていない」

🏭 土地|60年前に買った8ヘクタール
河内「土地も数えました。本社工場は愛知県大口町に81,592㎡。簿価は9.9億円で、1㎡あたり1.2万円です」
夜見「沿革では、名古屋の工場を1964年に大口町へ移しています。60年前の値段がそのまま帳簿に残っている計算です」
| 当てた単価 | 推定時価 | 1株あたり(税引後) |
|---|---|---|
| 3.0万円/㎡(工業用地として低め) | 24.5億円 | +73円 |
| 4.5万円/㎡(近隣公示の約3分の2) | 36.7億円 | +135円 |
| 6.7万円/㎡(中小口の公示地価) | 55.0億円 | +227円 |
河内「足しても1株あたり純資産は2,284円から2,419円へ、6%増えるだけです。兼房は土地の含み益で買う会社ではありません。しかも全製品を作っている工場なので、売れる土地でもない。修正PBRは0.32倍です」
🔭 3年後を3通りで
| ベア | ベース | ブル | |
|---|---|---|---|
| 1株利益(年) | 36円 | 65円 | 95円 |
| PBR | 0.28倍 | 0.34倍 | 0.47倍 |
| 3年後の株価 | 637円 | 819円 | 1,161円 |
| 780円から(配当込み) | ▲13% | +14% | +62% |
夜見「ベアは、利益率が2〜3%に落ちて円高も重なる場合。PBRは直近5年の下限です。ブルは営業利益が2022年3月期の17億円台に戻る場合で、PBRは同じ5年の上限。足元の4〜6月は営業利益が前年の2.2倍で、通期予想の36%まで進んでいます」
守田「ただし会社は予想を据え置いたままだ。刃先に使うタングステンが今年に入って高騰していて、新中計の2年目以降の数字も出せていない。第1四半期だけで上を決めるな」
🎯 採点|B++。下値をどこに置くかで割れる
| 軸 | 点 | 根拠 |
|---|---|---|
| 🦦安さ | 2 | PBR0.34倍、清原式1.34倍。ただし流動資産の4割は在庫 |
| 🦉財務 | 3 | 自己資本比率82%。現預金78億円に借入金31億円 |
| 🦫モート | 2 | 国内首位・ベニヤナイフ9割超・コールドソーは国の選定。ただし利益率は5% |
| 🐊触媒 | 1 | 配当性向を35%へ引き上げ。自社株買いはなく、大株主8名で過半 |
| 🐝インカム | 2 | 利回り2.95%。下限15円。今期は減配予想 |
| 🦞リスク | 1 | 売買代金は1日約490万円。海外売上54%で為替の影響が大きい |
夜見「合計11点で確度は『中』。上値は実質純資産2,419円に直近5年のPBR上限0.47倍を掛けた1,137円(+46%)です」
河内「問題は下値です。候補を浅い順に並べました」
| 下値の候補 | 株価 | 下値 | ランク |
|---|---|---|---|
| 52週安値 | 664円 | ▲15% | A− |
| 直近5年のPBR下限0.28倍 | 640円 | ▲18% | B++ |
| 直近5年のPER下限6.19倍 | 401円 | ▲49% | B++ |
| 1株あたり金融資産(採用) | 380円 | ▲51% | B++ |
日向「52週安値ならA−で、金融資産だとB++。どっちが正しいんすか」
守田「当商会の決まりは、『たぶんここで止まる』ではなく『ここまで行っても説明がつく』水準を採る。だから380円で、B++だ」
河内「ただ、正直に言うと割り切れない部分があります。在庫を半分だけ数えた1株664円は、52週安値と同じ水準で、実際の株価もその近くで止まってきました。在庫の硬さを認めるならA−寄り、決まりどおりならB++です」
沼田「迷ったら下に付ける。B++でいい。上限は純資産の2.5%、当商会の口座で約110万円、1,400株だ。1日の売買代金が490万円ほどだから、それ以上は持てても降りられない」
📋 まとめ
| 見るところ | 数字 |
|---|---|
| 値札 | 株価780円・時価総額112億円・PBR0.34倍・PER12.0倍 |
| ネットキャッシュ | 清原式1.34倍。現預金−借入金だけなら0.44倍、在庫を半分に見て0.85倍 |
| シェア | 国内35.6%で首位(工業会21社)。ベニヤナイフは9割超。世界は売上4位 |
| 国の選定 | 経産省 2020年版グローバルニッチトップ100選(鉄鋼切断用コールドソー) |
| 稼ぎ | 営業利益率は6期で2.9〜9.0%、ROEは3%台。足元4〜6月の営業利益は前年の2.2倍 |
| 還元 | 配当性向35%めど・下限15円、利回り2.95%。自社株買いの実績なし |
| 株主 | 大口興産と個人7名で52%(代表取締役の一人を含む) |
| 土地 | 大口町8.2ヘクタール・簿価9.9億円。足しても修正PBRは0.32倍 |
| 3年後 | ベア637円/ベース819円/ブル1,161円 |
| 当商会のランク | B++(上値1,137円・下値380円・確度11点)。上限2.5% |
沼田より 「ネットキャッシュ比率は便利な数字だが、何を現金に数えたかを見ないと意味を取り違える。兼房は現金で1倍の会社ではなく、現金と在庫と国内首位のシェアで1倍の会社だ。それでも安い。あとは、この会社が自分の株を買う日が来るかどうかを見ていく」
📊 詳細分析レポート(完全版)
兼房(5984)完全版レポート——貸借対照表の中身、ネットキャッシュの6段分解、シェアの3期比較と経産省の選定資料、6期分の業績と拠点別の利益、配当とキャッシュフロー5期分、中期経営計画、土地の取得時期と公示価格、大株主と会社の動き、3年後の3ケースの前提、6軸の採点と検算メモまで。
関連:ネットキャッシュ比率が高い21社を清原式で測り直した/フクビ化学工業(7871)/中部日本放送(9402)/配当性向が低い会社の内部複利
免責事項:本記事は投資助言ではありません。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。株価・指標は2026年10月6日終値時点(株探の確定値)、貸借対照表と株数は2026年6月末(2027年3月期第1四半期決算短信)、業績・設備・大株主・キャッシュフローは有価証券報告書(2014年3月期〜2026年3月期)、国内シェア・世界順位・売上構成は会社のIR資料(2022年3月・2025年6月・2026年6月)、グローバルニッチトップ企業100選は経済産業省の2020年版選定資料、配当方針と中期経営計画は会社の適時開示とコーポレート・ガバナンス報告書、PBR・PERのレンジと大量保有はIRBANK、地価は2026年の地価公示・都道府県地価調査による。土地の時価、大株主の保有比率の合算、3年後の3ケースは当商会の推定・試算で、将来の株価を保証するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。







