コラム|配当性向が低い会社は、いま静かに得をしている。『増配されない』こと自体が株主の利益になる仕組みと、その複利が本物か借り物かを見分けるたった1本の式【社内複利/低配当性向】
🧑💼 「沼田です。2026年8月14日、うちが追っている会社が、上方修正を出した日に売られました。昭和化学工業(4990)——営業利益を60%引き上げ、非開示だった経常・純利益まで開示したのに、高値531円から496円まで押し戻されて終わった」
🧑💼沼田「理由ははっきりしている。上方修正しても、配当を6円で据え置いたからだ。配当性向14.5%は、自社の中期経営計画が掲げる『当面15%以上』すら下回っている」
🧑💼沼田「そこで多くの人は『還元しない会社は買えない』と結論する。今日は、そこで一段止まって考える回だ」
🐝 まず、正面から異議を受ける
🐝花岡「高配当担当の花岡です。先に言っておきますが、私はこの手の議論に警戒しています」
🐝花岡「『還元しないのは長期的には株主のためだ』——これは、還元しない経営陣が最も好む言い訳です。実際に日本には、その言い訳のまま30年間なにもしなかった会社が山ほどある」
🧑💼沼田「その警戒は正しい。だから今日は、条件を先に置く。『低い配当性向が株主の利益になる』のは、無条件ではない。成立する場合と、しない場合がある」
🧑💼沼田「そして、その2つを見分ける式が1本ある。今日いちばん持ち帰ってほしいのは、その式のほうだ」
🦉 理由①|配当は、受け取った瞬間に20.315%が消える
🦉夜見「財務分析担当の夜見です。まず、いちばん単純で、いちばん見落とされている話から始めます」
🦉夜見「同じ100円の利益を、株主がどう受け取るかで、手元に残る金額が変わります」
| EPS100円をどう配るか | 手取り配当 | 社内に残る | 株主価値の合計 |
|---|---|---|---|
| 配当性向 10% | 8.0円 | 90.0円 | 98.0円 |
| 配当性向 30% | 23.9円 | 70.0円 | 93.9円 |
| 配当性向 50% | 39.8円 | 50.0円 | 89.8円 |
| 配当性向 80% | 63.7円 | 20.0円 | 83.7円 |
🦉夜見「性向10%と性向80%で、1株あたり年14.3円、率にして17.1%の差が出ます。そしてこれは、毎年発生します」
🧑💼沼田「重要なのは、この差が『経営が優秀だから』生まれたものではないという点だ。単に、国税庁への支払いを繰り延べているだけで生まれている」
🦉夜見「正確に言えば、これは非課税ではなく繰り延べです。最終的に売却すれば、譲渡益として20.315%が課税されます。ただし繰り延べている間、本来なら税として抜かれていたはずの金額も、会社の中で働き続けます。これが複利の正体です」
🐝花岡「……そこは認めます。私が扱う高配当株は、毎年きっちり2割を国に納めながら回している。その代わり、現金が確実に手に入る。どちらが良いかは、その現金で何をするか次第です」
🦉 理由②|低い配当性向は「増幅器」である
🦉夜見「二つ目です。配当性向が低いということは、その会社の稼ぐ力が、そのまま1株価値に乗る比率が高いということです」
🧮 1株純資産(BPS)が伸びる速さの、理論値 ・理論BPS成長率 = ROE × (1 − 配当性向) ・ROE12%・配当性向10%なら → 10.8% ・ROE12%・配当性向50%なら → 6.0% ・ROE3%・配当性向10%なら → 2.7%
🦉夜見「ここが今日いちばん大事な理解です。低い配当性向は、エンジンではありません。増幅器です。ROEという元の力を、何倍に増幅して1株価値へ乗せるかを決めているだけ」
🦞守田「リスク番から言い換える。ROEが低い会社が配当性向を下げても、それはただの死蔵だ。増幅すべき元の力がない」
🦉 実測|当商会が紹介した6社を並べる
🦉夜見「理屈だけでは足りないので、うちが実際に紹介した銘柄の実測値を並べます。すべて2026年8月14日終値ベースです」
| 銘柄 | 配当性向 | PER | PBR | 利回り | BPS成長(年率) |
|---|---|---|---|---|---|
| 日本ギア工業(6356) | 8.1% | 11.3倍 | 1.33倍 | 0.72% | +14.1% |
| 岡谷鋼機(7485) | 11.8% | 7.0倍 | 0.40倍 | 1.70% | +11.7%(剰余金) |
| 昭和化学工業(4990) | 14.5% | 12.0倍 | 0.53倍 | 1.21% | +13.1% |
| 星和電機(6748) | 19.4% | 7.7倍 | 0.50倍 | 2.51% | +12.5% |
| ダイケン(5900) | 39.2% | 13.6倍 | 0.35倍 | 2.87% | +2.4% |
| 東海エレクトロニクス(8071) | 53.6% | 13.8倍 | 0.32倍 | 3.90% | +4.9% |
🦉夜見「きれいに並びます。配当性向が低い4社は年率11〜14%でBPSを伸ばし、性向が40%を超える2社は2〜5%にとどまっています」
🦦河内「割安発掘担当の河内です。見落とされやすいのは、利回りとBPS成長が逆を向いていることです。日本ギアの配当利回りは0.72%しかありません。スクリーニングでは真っ先に落ちる数字です。しかし1株純資産は年14.1%で増えている」
🦦河内「つまり『利回り0.72%の地味な株』ではなく、『稼ぎの92%を社内に積み続けている株』というのが正確な description です」
🦞 だが、ここで止まると危ない|「本物」と「借り物」を見分ける
🦞守田「待て。いま出した表には、罠が1つ混ざっている。BPSが伸びている理由が、全社とも同じだと思うな」
🦉夜見「そこで先ほどの式を、検算の道具として使います」
🔬 複利の正体を暴く手順 ・理論BPS成長率 = ROE × (1 − 配当性向) を計算する ・実測のBPS成長率と突き合わせる ・乖離が小さい → 本業が複利を回している(本物) ・乖離が大きい → 別の何かが伸ばしている(借り物)
🦉夜見「先ほどの6社に、この検算を通します」
| 銘柄 | ROE | 配当性向 | 理論値 | 実測値 | 乖離 |
|---|---|---|---|---|---|
| 日本ギア工業 | 11.8% | 8.1% | 10.8% | 14.1% | +3.3pt |
| 星和電機 | 6.5% | 19.4% | 5.2% | 12.5% | +7.2pt |
| 昭和化学工業 | 4.4% | 14.5% | 3.8% | 13.1% | +9.3pt |
| ダイケン | 2.6% | 39.2% | 1.6% | 2.4% | +0.8pt |
| 東海エレクトロニクス | 2.3% | 53.6% | 1.1% | 4.9% | +3.8pt |
🦞守田「見ての通りだ。日本ギアの乖離は+3.3ポイントしかない。理論値10.8%の大半が、そのまま実測になっている。これは本業が複利を回している証拠だ」
🦞守田「対して昭和化学工業は、理論値が3.8%しかないのに実測が13.1%ある。差の9.3ポイントは、本業ではない何かが作った数字だ」
🦉夜見「その正体は、政策保有株の値上がりです。昭和化学の1Qを分解すると、BPS増加59.23円のうち内部留保由来はわずか7.04円で、残る52.2円は有価証券評価差額金でした」
🧑💼沼田「つまり、あの会社の複利エンジンは珪藻土ではなく銀行株だ。それは複利ではなく、日本株インデックスを間接的に持っているのと変わらない。逆回転も同じ勢いで起きる」
🦞守田「星和電機の+7.2ポイントも、同じ性質の疑いがある。実測12.5%という数字だけを見て『複利が効いている』と判断してはいけない。この式は、そういう誤読を防ぐために使う」
🦫 なぜ「モートのある会社」でだけ効くのか
🦫堀田「モート担当だ。ここまでの話に、もう一段だけ条件を足しておく」
🦫堀田「留保した資本が価値を生むかどうかは、その事業の競争構造で決まる。価格競争にさらされている会社が設備を増やせば、増えた供給が自分の値段を壊す。留保すればするほど価値が減る会社は、実際に存在する」
🏔️ 留保資本が価値を生む事業の条件 ・供給を増やしても、参入者が追随できない(鉱床・免許・認証・立地) ・顧客の切替コストが高い(工程に組み込まれている・再認証が必要) ・製品原価に占める比率が小さい(値上げが顧客の意思決定を変えにくい) ・この3つが揃う会社では、ROEが構造的に高止まりする——つまり増幅器に通す元の力がある
🦫堀田「日本ギアがROE11.8%を保てているのも、バルブ用ギアという寡占ニッチだからだ。ROEの持続性そのものが、モートの関数になっている」
🦍 乱入|「それ、俺が10年前から言ってることじゃん」
🦍テック番長「おいおい、ちょっと待てや。『配当なんか出さずに全部再投資したほうが株主のためになる』って、それグロース株の理屈そのものだろ。俺が10年前から言ってることを、今さらバリュー側が発見した顔で語ってんの、控えめに言って面白すぎる」
🦍テック番長「つーか配当性向ゼロの会社なら山ほどあるぞ。SaaSでもAI銘柄でも。なんでわざわざPBR0.5倍の地味株を選ぶんだよ」
🧑💼沼田「番長、今日はお前の指摘が最も本質に近い。理屈は同じだ。違うのは2つだけだ」
⚔️ 同じ「内部留保」でも、決定的に違う2点 ・①再投資のリターンが検証可能か——日本ギアはROE11.8%を実績として出している。成長株の多くは「これから高いリターンが出る」という予測に依存する ・②いくらで買っているか——PBR0.5倍で買えば、1円の内部留保が2円のBPSに相当する。PBR8倍で買えば、1円の内部留保は0.125円分の値段しか付いていない
🧑💼沼田「複利という現象そのものに、バリューもグロースもない。だが『複利が本当に回っているかを確認できるか』と『その複利をいくらで買ったか』は、まったく別の問題だ」
🦍テック番長「……ぐっ。『検証可能か』はズルいだろ。俺のとこは未来を買ってんだよ」
🦞守田「それを未来を買うと呼ぶか、検証を放棄したと呼ぶかの違いだな」
🦎日向「あっ、番長さんの茶々、そのまま判定表になりますね。整理するとこうです」
✅ 番長の茶々→「低配当性向」を評価する5つの確認 ・ROEはいくつか? → ROEが5%未満なら、低配当性向はただの死蔵 ・理論値と実測値は合っているか? → 乖離が大きいなら、複利ではなく含み益。逆回転もする ・ROEは持続するか? → モート(供給制約・切替コスト・原価比率の小ささ)を確認する ・いくらで買っているか? → PBRが低いほど、同じ内部留保を安く買える ・いつか渡す意思はあるか? → 永遠に渡さないなら、それは他人の金庫で増える数字にすぎない
🦍テック番長「……5個も条件出されると、逆に文句つけづらいわ(ぐぬぬ)」
🦞 誤解しないでほしいこと|「渋いから安い」ではない
🦞守田「最後に、この記事がいちばん誤読されそうな箇所を潰す」
🦞守田「『還元が渋いから株価が安い』——これは、成立しない」
🦉夜見「先ほどの表に、その反証が入っています。東海エレクトロニクスは配当性向53.6%、配当利回り3.90%と、還元は決して渋くありません。それでもPBRは0.32倍です」
🦞守田「つまり安さの理由は還元姿勢ではなく、別のところにある。流動性、ガバナンス、事業の縮小、開示の薄さ——理由は会社ごとに違う」
🧑💼沼田「だから今日の主張は『渋い会社を買え』ではない。『渋いという理由だけで減点していた銘柄群に、もう一度、別の物差しを当ててみろ』——それだけだ」
🐝花岡「高配当担当としても、そこは同意します。私が扱う銘柄と、今日の銘柄群は、そもそも競合していません。現金がほしい人はインカムを、時間を味方にできる人は複利を——ポートフォリオの中で、役割が違うだけです」
まとめ|配当性向という数字の、読み替え方
🧑💼沼田「今日の話を、一枚に畳む」
| 論点 | 結論 |
|---|---|
| 税 | 配当は受け取った瞬間に20.315%が消える。EPS100円で性向10%なら株主価値98.0円、性向80%なら83.7円——差は年17.1% |
| 低配当性向の正体 | エンジンではなく増幅器。理論BPS成長率=ROE×(1−配当性向)。ROEが低ければ増幅しても意味がない |
| 見分ける式 | 理論値と実測値の乖離を見る。小さければ本業が複利を回している(日本ギア+3.3pt)。大きければ含み益が伸ばしているだけ(昭和化学+9.3pt) |
| 効く事業の条件 | 供給制約・切替コスト・原価比率の小ささ。ROEの持続性はモートの関数 |
| グロース株との違い | 複利の理屈は同じ。違うのは①リターンが実績で検証できるか ②いくらで買っているか |
| 最大の誤読 | 「渋いから安い」ではない。性向53.6%・利回り3.9%の東海エレクトロニクスもPBR0.32倍。安さの理由は還元姿勢とは別にある |
| 残る最大のリスク | 永遠に株主へ渡さないなら、それは複利ではなく他人の金庫で増える数字。ここだけは、どの銘柄でも未解決のまま残る |
💬 沼田より 「配当性向という数字は、長いあいだ『経営の株主への誠実さ』を測る物差しとして使われてきた。低ければ怠慢、高ければ誠実——おおむね、そう読まれてきた。だが同じ数字は、別の読み方もできる。低い配当性向とは、税を払わずに社内で回り続けている資本の比率のことだ。日本ギア工業は、利回り0.72%という『スクリーニングで真っ先に落ちる数字』の裏側で、1株純資産を年14.1%で増やし続けている。それを地味と呼ぶか、静かに得をしていると呼ぶかは、持つ時間の長さで変わる。ただし今日いちばん持ち帰ってほしいのは、その結論ではなく式のほうだ。ROE×(1−配当性向)を計算して、実測と突き合わせる。それだけで、本物の複利と、市場が上げてくれただけの含み益を、区別できる。——区別できないまま『社内複利』という言葉に頼るなら、それは還元しない経営陣が用意した言い訳を、投資家の側が代わりに言ってあげているだけになる」
関連:低配当性向という妙味/昭和化学工業(4990)上方修正でも売られた/日本ギア工業(6356)/岡谷鋼機(7485)
※本稿は投資助言ではありません。株価および株価から導いた指標は2026年8月14日終値を基準にしており、時点によって異なります。配当性向は各社の会社予想EPSと予想DPSから、ROEは会社予想純利益と直近四半期末の自己資本から当方が算出した概算値で、会社発表値とは異なる場合があります。BPS成長率は各社の直近開示BPSと2〜2.5年前のBPSから年率換算した実測値です(岡谷鋼機は期中に株式分割があり1株当たり数値の連続性がないため、剰余金の伸びを代用しています)。理論BPS成長率は自己資本と利益水準が一定という単純化した前提に基づく概算であり、増資・自己株買い・為替換算調整・退職給付調整などの影響は考慮していません。税率20.315%は特定口座・申告分離課税を前提としており、NISA口座や総合課税を選択した場合は結果が異なります。投資はご自身の判断と責任でお願いします。