銘柄紹介|ツツミ(7937)— 現金は時価総額の3分の2、在庫は302億円。「金を買うか、この株を買うか」を数えた【B++・PBR0.54倍・利回り4.82%】
🦎 「課長。金が3月の高値から▲23%下げました。金のネックレスを作って売っている会社の株は、▲31%下げています。この会社、現金だけで時価総額の3分の2あるんです」
沼田「ツツミか。埼玉の蕨に本社がある宝飾品の会社だな。ショッピングセンターでよく見る」
日向(見習い)「はい。金と宝石を自分で仕入れて、自分の工場で作って、自分の145店で売ります。今日はこの会社を、資産、利益、株主、税、それから『金そのものを買うのと何が違うのか』まで見ます」
🏦 1株2,384円の中身
河内「安さ担当の河内です。6月末の貸借対照表を、1株あたりに直しました」
| 1株あたり | 金額 |
|---|---|
| 現金及び預金 | 1,608円 |
| 棚卸資産(宝飾品・地金。原価) | 1,933円 |
| 土地と賃貸不動産(簿価) | 498円 |
| 売掛金・敷金など | 501円 |
| 負債 | ▲112円 |
| 1株純資産 | 4,427円 |
| 株価(10/8終値) | 2,384円 |
河内「借入金はありません。株価から現金を引くと776円です。その776円で、原価1,933円の在庫と、土地と、店を買っている計算になります。PBRは0.54倍、流動資産から負債を全部引いた額は時価総額の1.49倍です」
日向「在庫は金ですよね。金は何年も上がってきたから、昔の値段で載っている在庫には含み益があるんじゃないですか」
夜見「財務分析担当の夜見です。私も最初にそう考えて、確かめました。結論から言うと、含み益は見込めません」
- 製造原価の93.9%が材料費。在庫の原価は、ほぼ材料の値段で決まる
- 製品在庫は1年に1.2回転する。平均して10か月ほどで入れ替わる
- その間の金の平均は1グラム約21,300〜22,400円(税抜)。いまは約21,000円
- 原材料と仕掛品は、6月末の相場に合わせて評価損を計上済み
夜見「金は何年も前の値段で眠っているのではなく、この1年の高い値段で作り直されています。会社は去年から、値上げを抑えて在庫を厚く持つやり方で売上を伸ばしました。棚卸資産は2年あまりで175億円から302億円に増え、そのぶん現金が減っています」
| 3月末 | 現金及び預金 | 棚卸資産 |
|---|---|---|
| 2014年 | 416億円 | 188億円 |
| 2022年 | 389億円 | 150億円 |
| 2026年 | 322億円 | 258億円 |
| 2026年6月末 | 251億円 | 302億円 |
🥇 利益は金と一緒に動いた
堀田「モート担当の堀田だ。5期を見てくれ」
| 決算期 | 売上高 | 営業利益 | ROE | 配当 |
|---|---|---|---|---|
| 2022年3月期 | 165億円 | 10.7億円 | 1.0% | 30円 |
| 2024年3月期 | 199億円 | 16.7億円 | 1.7% | 60円 |
| 2025年3月期 | 248億円 | 24.1億円 | 2.9% | 80円 |
| 2026年3月期 | 352億円 | 52.4億円 | 5.4% | 115円 |
| 2027年3月期(予想) | 313億円 | 40.0億円 | — | 115円 |
堀田「前期は3回上方修正した。伸びたのは地金のネックレスとブレスレットで、売上の62%を占める。物価が上がる中で金のジュエリーに人気が集まり、よその店が品薄になったところへ、在庫を持っていたこの会社に客が来た。会社はそう説明している」
日向「でも今年の4〜6月は、営業利益が46%も減っています」
夜見「そこは中身を見てください。金は3月3日に高値を付けたあと下げて、6月末は3月末より10%安くなりました。そのせいで原材料と仕掛品に4.82億円の評価損が出ています。評価損を除くと、粗利も営業利益も前年を上回ります。売上は3%増えました」
堀田「店は売れている。ただ、利益が2倍になった前期でもROEは5.4%だ。会社が自分で見積もった資本コストは6.4〜8.1%。自己資本692億円のうち251億円が現金で寝ているから、どれだけ売れても届かない」

📉 高値から▲31%。何が起きたか
墨田「AIバックチェック担当の墨田です。株価と金の日付を重ねました」
| 日付 | 出来事 | 株価 | 金(税込・1g) |
|---|---|---|---|
| 3月2〜3日 | 株と金がそろって高値 | 3,455円 | 29,969円 |
| 5月14日 | 今期は営業利益24%減の予想 | — | — |
| 6月末 | 金が3月末から10%安 | 2,557円 | 23,125円 |
| 8月7日 | 4〜6月は営業利益46%減 | — | — |
| 9月29日 | 中間配当45円の権利落ち | 2,491円 | 23,085円 |
| 10/8 | 年初来安値を更新 | 2,384円 | 23,105円 |
墨田「株の高値は3月2日、金の高値は3月3日です。1日しか違いません。2月に株が1か月で29%上がったときも、金と同時でした。株価は去年の秋から、金に連動する株として買われていたと読めます」
守田「リスク管理担当の守田だ。売られた理由を、確からしい順に言う。一番は金そのものの下げ。次が今期の減益予想。前期に3回も上方修正していたから、期待が高かった。4〜6月の評価損は見出しの数字を悪くした。最後に9月末の権利落ちだ。信用倍率は7.5倍で買い残が多いが、ここは確かめきれていない」

🦅 乱入|ドル建て鷹「金が上がると思うなら、金を買えばいい」
ドル建て鷹「聞いていたぞ。金に連動する株だと? なら金を買え。金はドル建ての世界共通資産だ。なぜ埼玉の会社の株を挟む」
日向「鷹さん、でも株なら配当が……」
鷹「配当4.8%か。金は5年で何倍になった」
墨田「3.4倍です。田中貴金属の月平均で、2021年9月の6,368円から2026年9月の21,953円。同じ5年でツツミの株は2,160円から2,500円。+16%です。5期分の配当325円を足しても+31%でした」
鷹「勝負になっていないじゃないか」
河内「鷹さんのおっしゃる通りです。過去5年、この株は金の代わりになっていません。株が金に付いていったのは去年の11月から今年の3月までの4か月だけで、下げでは金より大きく下げました。ですから当商会も、金の代わりとしては見ていません。100万円で比べるとこうなります」
| 100万円で | 金を買う | ツツミの株を買う |
|---|---|---|
| 手に入るもの | 金 約43.3g | 約419株 |
| 裏にある現金 | なし | 約67万円 |
| 裏にある在庫 | 金そのもの | 原価で約81万円 |
| 毎年の受け取り | なし | 配当 約4.8万円 |
| 金が動いたとき | そのまま動く | 売れたときに利益。大きく下がれば評価損 |
| 取り出せるか | 売ればいつでも | 会社が配分を決める |
河内「在庫のうち金とプラチナは、当商会の粗い見立てで45〜52万円ぶんです。金が下がっても株価の3分の2は現金で、持っている間は配当が出ます。金の値上がりを取りにいく道具としては、金のほうが素直です」
鷹「ふむ。下げに強い金もどき、ということか。だが最後の行が気になるな。『会社が配分を決める』とは何だ」
沼田「いいところを突く。金は自分の金庫に入るが、この会社の現金と在庫は会社の金庫に入っている。その鍵の話を次にする」
鷹とのやり取りで、当商会の見方はこう整理できました。
- 金の値上がりを取りたいなら、金。5年の実績がそう言っている
- この株にあるのは、現金の裏打ちと配当と、在庫を原価の半値以下で買っている計算
- その値引きは、鍵を持っていないことの代金でもある
🔑 鍵を持っているのは誰か
待伏「カタリスト担当の待伏だ。名簿を見る」
| 株主(2026年3月末) | 比率 |
|---|---|
| 筆頭株主(個人) | 51.21% |
| 個人2名 | 9.84%、9.73% |
| 創業者の名を冠した奨学財団 | 6.39% |
| 上位4者の合計 | 77.17% |
待伏「会社の開示では、支配株主の議決権は合算で70.89%。単独で特別決議を通せる。創業者は2014年に48%を持っていて、2022年11月に亡くなった。2024年3月末の名簿からいまの形になっている。有価証券報告書に書いてあるのはそこまでだ」
日向「外の株主が『現金を配ってください』と言っても、通らないんですね」
待伏「通す手段がない。ただ、会社は動いていないわけではない。配当は4年で30円から115円になった。一方で自社株買いは2022年3月期を最後に止まっている。市場に出ている株が2割強しかないから、買えば買うほど上場の基準に近づく。還元が配当に寄るのは、この名簿なら自然だ」
日向「9月の記事で書いたミニマムタックスは、ここに効きますか。2027年から、大きな売却益への税が重くなる話です」
夜見「ほとんど効きません。あの改正が効くのは、個人が株を売って売却益を出すときです。大株主が受け取る配当はもともと総合課税で税率が高く、追加の負担は出ません。筆頭株主の持ち分はいまの株価で約191億円ありますが、売る側に回ることを示す開示は何もありません。売らない人に、売却益の税は関係がないのです」
待伏「非公開化はどうか。算数だけ先に済ませる。支配株主の側と財団の外にある株は約355万株。4割上乗せの3,338円で全部買っても約118億円、1株純資産の4,427円で買っても約157億円だ。会社の現金は251億円ある。資金も議決権も足りている」
守田「足りていることと、やることは別だ。検討しているという開示はない。配当を増やしているのは、上場したまま受け取る道を選んでいるとも読める。それに、支配株主が買う側に回る非公開化では、買う値段は安いほうが買う側に得になる。純資産よりずっと低い値段が提示される例は珍しくない。期待して待つ話ではない」

🏷️ 採点
| 軸 | 点 | ひとこと |
|---|---|---|
| 🦦 安さ | 3 | PBR0.54倍。現金だけで時価総額の67% |
| 🦉 財務 | 3 | 無借金。自己資本比率97.5% |
| 🦫 モート | 1 | 製造から販売まで一貫。ROEは最高でも5.4% |
| 🐊 触媒 | 2 | 配当は4年で3.8倍。自社株買いは止まっている |
| 🐝 インカム | 3 | 利回り4.82% |
| 🦞 リスク | 0 | 支配株主が70.89%。規則で0点 |
| 確度 | 12 | 18点満点 |
夜見「上値は1株純資産4,427円に、直近5年のPBRの高値0.77倍を掛けて3,409円。3月の高値とほぼ同じ場所です。下値は1株あたりの現金から負債を引いた1,495円。上が+43.0%、下が▲37%で、幅は『小』。ランクはB++です」
花岡「配当担当の花岡です。3年後を、金の値段で3つに分けました」
| 3年間の金 | 株価 | 配当込み |
|---|---|---|
| 3割安(25%) | 1,840円(▲23%) | ▲13% |
| 横ばい(50%) | 2,542円(+7%) | +21% |
| 3割高(25%) | 3,640円(+53%) | +70% |
花岡「金が横ばいなら、株価の上げは小幅です。リターンの大半が配当になります。3割安のケースは配当を80円に減らす前提で、3割高のケースはPBRが前期の高値まで戻る前提です。どれも当商会の見立てで、金のように値段がそのまま返ってくる数字とは性格が違います」
守田「リスクが0点の銘柄は、うちの規則で1銘柄あたり運用資産の1%までだ。1日の売買代金は4,000万円ほどしかない。この2つは、金庫がどれだけ厚くても変わらない」
📋 まとめ
| 見るところ | 数字 |
|---|---|
| 値札 | 2,384円。PBR0.54倍・PER13.3倍・利回り4.82% |
| 資産 | 現金251億円(時価総額の67%)、在庫302億円、無借金 |
| 在庫 | この1年の金の値段で作られている。含み益は見込めない |
| 利益 | 売上は4年で2.1倍。今期は営業利益24%減の予想。4〜6月は評価損4.82億円 |
| 株主 | 支配株主の議決権70.89%。市場に出ている株は2割強 |
| 税 | ミニマムタックスは配当に効かない。売る側に回る開示はない |
| 非公開化 | 外の株は約355万株。PBR1倍で買っても約157億円。開示はない |
| 金との比較 | 5年で金は3.4倍、株は配当込み+31% |
| 採点 | B++(幅・小/確度12点)。上値3,409円・下値1,495円 |
次に見るのは11月の中間決算です。金が戻れば評価損は戻し入れになり、下がれば増えます。在庫と現金がどちらへ動いたかも、そこで分かります。
沼田より 「金庫は厚い。中身も数えた。けれど鍵はこちらにない。安さの3点とリスクの0点が同じ表に並ぶのは、そういう会社だからだ。金を買うか、この株を買うかで迷ったら、先に決めるのは金の見通しではなくて、鍵のない金庫にいくら払うかだと思う」
📊 完全版レポート(タブ式・12章)
ツツミ(7937)統合投資分析レポート——1株の中身、13年分の現金と在庫の推移、在庫の含み益の確かめ方、四半期ごとの粗利、名簿が変わった経緯と流通株式の推定、ミニマムタックスの当てはめ、非公開化の算数、金との比較(5年の値動きと100万円の中身)、株価と金の日付の対照表、3年後の3ケース、採点の根拠、検算メモまで。
免責事項:本記事は投資助言・税務の助言ではありません。特定銘柄や金の売買を推奨するものではありません。株価・指標は2026年10月8日終値時点(株探の確定値)、財務は2027年3月期第1四半期決算短信(2026年6月末)、業績・品目別の売上・製造原価・大株主は有価証券報告書と決算短信、支配株主の議決権と資本コストは適時開示とコーポレート・ガバナンス報告書、金の値段は田中貴金属工業の公表値によります。在庫に占める金・プラチナの比率、在庫の原価と金の値段の関係、流通株式の推定、非公開化の試算、ランク・上値・下値・3年後の3ケースは当商会の計算で、将来の株価や会社・株主の意向を示すものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。








