銘柄紹介|川崎設備工業(1777)— 含み益を4回探して4回とも空振りした。それでも買える理由はROE24.8%とPER8.2倍の同居にある【関電工が50.10%を握る名証の空調サブコン/配当利回り4.04%】
🧑💼 「今日は、うちの看板が通用しなかった銘柄を出す。いつもの順番で物差しを当てて、4回とも空振りした。それでも買う理由が残ったので、記録として置いておく」
河内「割安発掘担当の河内です。先に白状しておきます。私がこの会社に期待していたものは、ひとつも見つかりませんでした」
🧰 うちの道具箱を、順に当ててみる
沼田「川崎設備工業(1777)。名証メイン単独上場、株価2,350円、時価総額282億円。空調・冷暖房・給排水衛生・電気設備工事の専業サブコンだ」
沼田「建設系で、名証で、時価総額282億円。——うちが好きそうな顔をしている。だから、いつもの4本を当てた」
空振り①|土地の含み益 — 全社で2,094坪しかない
河内「最初に土地を見にいきました。有報の『主要な設備の状況』を全件開いて、所在地ごとに公示地価を当てました」
| 前提 | 土地時価 | 含み益(税前) | 税引後 | 修正BPS |
|---|---|---|---|---|
| 保守(公示×80%) | 22.6億円 | +3.2億円 | +18円 | 1,392円 |
| 中立(公示×100%) | 27.4億円 | +8.0億円 | +46円 | 1,420円 |
| 強気(公示×120%) | 32.2億円 | +12.8億円 | +74円 | 1,448円 |
河内「保有地は全社で6,921.83㎡——約2,094坪です。中立ケースの含み益は税引後で1株46円。株価2,350円の2.0%。誤差です」
河内「しかも中身を開けると、含み益の大半は1か所に集中しています。名古屋市中区大須の本店用地667.96㎡、簿価3.9万円/㎡——1959年に岐阜から移転して以来60年以上動かしていない土地で、推定+7.0億円。残りは細かく、西宮市甲東園の社宅用地には約2億円の含み損が眠っています」
墨田「AIバックチェック担当の墨田です。ここは通しますが、区分だけ明確にしておきます。この46円は開示値ではなく、公示地価から当てた推計値です。実際の標準地は建物の敷地そのものではありません。ただし今回は、推計が薄いという結論なので、精度が判断を変えません」
空振り②|有価証券の簿外含み益 — ゼロだった
夜見「財務分析担当の夜見です。次に投資有価証券を開けました。簿価5.04億円、その他有価証券評価差額金は271百万円(税引後)」
夜見「日本基準では、その他有価証券は期末時価で貸借対照表に載ります。つまり含み益はすでにBPSへ反映済みで、簿外に隠れているものはゼロです。売却しても税引後2.7億円=1株23円の現金化余地があるだけ」
空振り③|ネットキャッシュ — 時価総額の10.6%
河内「3本目。うちが一番得意な『現金が時価総額を上回る』型かどうか」
💰 現金の実態 ・有利子負債(借入金・社債)はゼロ。リース債務2.8億円のみ ・ただし26年3月期末の現金は29.5億円——時価総額282億円の10.6% ・前期38.7億円から減っている ・1Q末に49.3億円へ回復しているが、これは売掛金回収による季節要因
河内「『現金>時価総額』とは全く別のプロファイルです。ここに妙味を求めるべきではありません」
空振り④|下値の床 — そもそも無い
守田「リスク番の守田だ。4本目は俺が潰す。PBR1.72倍。土地含み益を足した修正PBRでも1.66倍」
守田「1株純資産1,374円は、いまの株価2,350円の59%にすぎない。『解散価値が下支えする』というタイプの安心感は、この銘柄には無い。業績が崩れれば、PER基準で素直に下がる」
沼田「——ここまでで4連敗だ。普通なら、ここで見送る」

🦫 5本目の物差しで、初めて当たった
堀田「モート担当の堀田だ。俺の番になって、ようやく話が変わる。資産ではなく、稼ぐ力のほうを見ろ」
| 企業 | 売上高 | 営業利益 | 営業利益率 |
|---|---|---|---|
| 高砂熱学工業(1969) | 4,239億円 | 477億円 | 11.2% |
| 大気社(1979) | 2,861億円 | 233億円 | 8.1% |
| ダイダン(1980) | 2,562億円 | 345億円 | 13.5% |
| 三機工業(1961) | 2,547億円 | 280億円 | 11.0% |
| 新日本空調(1952) | 1,549億円 | 151億円 | 9.7% |
| 川崎設備工業(1777) | 376.5億円 | 49.0億円 | 13.0% |
堀田「売上は高砂熱学の11分の1だ。それでいて営業利益率は5社中2位、ROE24.8%は全社中トップ。経常利益率は22年3月期の5.4%から26年3月期13.2%へ、ROEは6.6%から24.8%へ4倍になった」
堀田「そして、その利益率にPER8.15倍が付いている。同業4社平均は14.4倍。▲44%のディスカウントだ」
なぜこの規模で、大手より利益率が高いのか
堀田「答えは営業拠点の住所に書いてある」
| 拠点 | 所在地 | 隣にあるもの |
|---|---|---|
| 各務原営業所 | 岐阜県各務原市鵜沼川崎町 | 川崎重工業 岐阜工場(航空機) |
| 明石営業所 | 兵庫県明石市川崎町 | 川崎重工業 明石工場 |
| 神戸支店 | 神戸市中央区東川崎町 | 川崎重工業 神戸本社・神戸工場 |
| 水島営業所 | 岡山県倉敷市水島川崎通 | 水島コンビナート |
| 豊田支店 | 愛知県豊田市豊栄町 | トヨタ自動車 本社・堤・元町 |
| 九州営業所 | 福岡県宮若市 | トヨタ自動車九州 宮田工場 |
| 東北営業所 | 宮城県黒川郡大和町 | トヨタ自動車東日本 宮城大衡 |
堀田「1951年、川崎岐阜製作所——いまの川崎重工業の設備部門を分離独立してできた会社だ。地名に『川崎』が残る拠点が4つある。全21拠点のうち、少なくとも7拠点が特定の大口顧客の工場に隣接している」
🏭 工場設備工事の三重の壁 ・稼働を止められない——止めた瞬間に生産が飛ぶ ・図面と配管ルートを知っている業者しか触れない ・事故時の責任が重い ・結果、一度入った工場は、更新工事までその業者が抱え続ける
堀田「だからこれは『業界シェアNo.1』型のニッチトップじゃない。『特定顧客の特定工場における、実質的な指名業者』型だ。価格競争に晒されないから、この規模で13%が出る」
🦉 受注残が、売上の1.14年分まで積み上がった
夜見「もう一つ、収益の可視性を示す数字があります」
| 期 | 受注高 | 完成工事高 | 受注/完工 | 期末繰越 |
|---|---|---|---|---|
| 25/3期 | 310.2億円 | 291.6億円 | 1.06倍 | 271.4億円 |
| 26/3期 | 402.2億円 | 376.5億円 | 1.07倍 | 297.2億円 |
| 27/3期 1Q | 229.1億円 | 80.4億円 | 2.85倍 | 445.9億円(推定) |
夜見「1四半期だけで、前期通年の受注402億円の57%を積みました。前年同期比+63.2%。推定受注残446億円は、通期売上予想390億円の1.14年分にあたります」
夜見「会社の説明は『AI・半導体分野での需要を背景とした設備投資計画は拡大傾向』。通期予想は完成工事高390億円で前期比+3.6%と保守的に置かれたままです」
夜見「なお1Qは完成工事高▲11.2%・営業利益▲14.0%の減収減益ですが、受注は+63.2%です。これは受注減ではなく工事進行の期ずれで、期末に完工が集中する建設業の季節性を踏まえれば下期偏重の年になる可能性が高い」
ただし、利益がキャッシュに変わっていない
夜見「ここは正直に出します。私が最も気にしている点です」
| 期 | 純利益 | 営業CF | CF/純利益 |
|---|---|---|---|
| 25/3期 | 19.6億円 | ▲0.0億円 | 0.0% |
| 26/3期 | 36.8億円 | 6.0億円 | 16.3% |
夜見「2期連続で、利益がキャッシュに変わっていません。売上+29%成長を、完成工事未収入金147.7億円(売上の143日分)の膨張が丸ごと吸収した形です。1Qで117.8億円へ30億円減っているので期ずれの色は濃いのですが、成長が続く限り運転資本は食い続けます」

🐊 カタリストは一本道|関電工が動くか、動かないか
待伏「TOB担当の待伏です。この銘柄のイベントは、実質1つしかありません」
| 株主 | 比率 | 性質 |
|---|---|---|
| 株式会社関電工 | 50.10% | 親会社・支配株主 |
| 川崎設備工業 取引先持株会 | 16.46% | 安定株主 |
| 川崎設備工業 従業員持株会 | 3.41% | 安定株主 |
| 川崎重工業株式会社 | 1.80% | 創業由来の資本関係 |
| 上位10名 合計 | 76.50% | 実質浮動株 約20% |
待伏「少数株主持分49.9%の買い取り原資は、現在価格で139億円。40%プレミアムでも195億円です。関電工は26年3月期に300億円の自社株買いを実施済みで、資金余力の問題は存在しません」
待伏「取り込める純利益は年17.2億円。195億円の投資に対して利回り8.8%——関電工の自社株買い(PER16.6倍=利回り6.0%)より資本効率が高い計算になります。親会社はROE16%・ROIC14%・政策保有株式300億円縮減を掲げて資本効率経営に舵を切りました」
待伏「——ただし、ここで冷静な事実を1つ置きます」
⏳ 18年間、何も起きていない ・関電工は2008年3月に1株105円・総額6.27億円でTOBし、50.10%を取得した ・以来18年間、ぴったり50.10%を維持している ・名証は東証ほど親子上場への圧力が強くない ・取引先持株会16.46%は営業上の関係資産で、完全子会社化はそれを解消することを意味する ・「合理的だからやる」とは限らない。3年内の確率は15〜25%と置く
花岡「高配当担当です。待つ間の燃料は用意されています。年95円で利回り4.04%、配当性向33.0%。ただし内訳は普通配当50円+特別配当45円です」
花岡「特別配当が消えれば、普通配当50円だけ=利回り2.2%まで落ちます。ここが減配シグナルの監視点です。一方で自己資本比率65.9%・借入ゼロ・自社株買い実績なしという状態で、親会社が配当性向40%を掲げているのに子会社が33%というのは説明が難しい。40%なら1株115円=利回り4.9%です」
🦅 乱入|「その株、そもそも買えるんですか?」
ドル建て鷹「……失礼。さっきから利益率だのROEだの言ってるが、出来高を見たかね。1日2,000株。金額にして約460万円だ」
鷹「名証メイン単独上場、浮動株20%。100万円のポジションを建てるのに数日、降りるのにそれ以上かかる。好材料が出た日には値が飛んで買えず、悪材料が出た日には売り板が消える。しかも円建てだ。3年で+38%と言うが、その間に円がどうなるかは誰も保証せんよ」
守田「鷹、前半はこちらの結論と同じだ。この銘柄で最大のリスクはバリュエーションではなく流動性だと、我々も書いている」
沼田「だから制約の掛け方が変わる」
🎯 この銘柄に固有の3つの制約 ・ポジション上限を、確信度ではなく板の厚さから逆算して先に決める ・「良い値段で全量」は不可能。指値で日数をかけて分割で拾う以外の入り方がない ・配当4.04%が待つコストを吸収するので、時間軸は3年で構わない
鷹「……ふん。後半の円建ての話には答えていないな」
沼田「答えないのが答えだ。為替を当てにいかないから、円建てで完結する事業を選んでいる。この会社の顧客はトヨタと川崎重工の国内工場で、売上も費用も円だ。読めない変数を1つ減らしている」
日向「あっ、鷹さんの茶々、そのまま買う前のチェックになりますね。3つです。①1日の売買代金に対して、自分のポジションは何日分か ②その板で降りられるか ③降りられないまま3年持つ覚悟があるか。③にイエスと言えないなら、利益率がどれだけ高くても触るべきではありません」

🦞 撤退条件と、3年後
守田「買う理由より先に、降りる条件を書いておく」
🚪 この3つのどれかが出たら、サイクル反転と判断する ・受注高の前年割れが2四半期連続 ・営業利益率の10%割れ(=値上げ転嫁の限界) ・特別配当の非継続(普通配当50円のみに戻る)
守田「そしてもう一つ、業界全体の話をしておく。空調サブコン大手5社は、26年3月期に全社が過去最高益を更新した。値上げ転嫁と選別受注が同時に効いた『良すぎる年』の直後にいる。PER8倍が『安い』のか『ピーク利益への正当な割引』なのかは、この一点にかかっている」
| シナリオ | 確率 | 3年後株価 | 株価騰落 | 配当込 | 前提 |
|---|---|---|---|---|---|
| Bear | 25% | 1,300円 | ▲44.7% | ▲32.6% | 完工355億円・営業利益率8.0%へ低下 |
| Base | 50% | 2,880円 | +22.6% | +34.7% | 完工435億円・営業利益率12.0%を維持 |
| Bull | 25% | 4,595円 | +95.5% | +107.7% | 完工490億円・営業利益率14.0%・PER12倍 |
| 確率加重 | — | 2,914円 | +24.0% | +36.1% | 年率+10.8%/リスク・リワード 1:2.1 |
墨田「この表は一度作り直しています。初稿では確率加重の株価を3,210円としていましたが、これは配当込リターン+38.1%を株価に掛け戻した数字で、配当を株価上昇として二重に数えていました。確率で加重した株価は2,914円です。3年分の配当285円(年95円)は、株価とは別に足します」
待伏「なお、TOBが実現する場合の想定価格は3,600〜4,500円です。つまりTOBは上値を作る材料であると同時に、上限を切る材料でもあります。自力で同業並みPER14.4倍まで戻れば、Base前提のEPS303円でも4,363円が説明できます」
まとめ|物差しを持ち替えるという判断
沼田「今日の話を、一枚に畳む」
| 当てた物差し | 結果 |
|---|---|
| 土地の含み益 | 空振り。全社2,094坪、税引後46円/株=株価の2.0% |
| 有価証券の簿外含み益 | 空振り。すでに時価評価済みで簿外はゼロ |
| ネットキャッシュ | 空振り。期末29.5億円=時価総額の10.6% |
| 下値の床 | 空振り。PBR1.72倍・修正PBR1.66倍で床が無い |
| 収益力 | 命中。営業利益率13.0%(大手5社中2位)・ROE24.8%(全社中1位)でPER8.15倍 |
| 可視性 | 命中。受注残446億円=売上の1.14年分、1Q受注+63.2% |
| カタリスト | 関電工50.10%の完全子会社化。ただし18年間動いていない |
| 最大の制約 | 流動性。出来高1日2,000株=約460万円 |
💬 沼田より 「うちは資産バリューの店だ。現金と土地と有価証券を数えて、値札より中身が重い会社を拾ってきた。その物差しが、この会社では4回連続で空を切った。こういうとき、選択肢は2つある。物差しに合う銘柄まで待つか、物差しを持ち替えるか。——今回は持ち替えた。営業利益率13.0%とROE24.8%が、売上規模で11倍ある会社を上回っている。その事実にPER8.2倍が付いているなら、それは資産の安さとは別種の、しかし同じくらい検証可能な安さだ。ただし持ち替えたぶん、失うものもある。下値を支える床が無くなった。だから撤退条件を3つ、買う前に決めてある。物差しを変えるのは構わない。変えたことに気づかないまま、前の物差しの安心感だけ持ち込むのが一番危ない」
関連:トーソー(5956)グレアムの物差しがそのまま通った/菱友システムズ(4685)親子上場の防衛SIer/神栄(3004)政策保有株が時価総額の91%/コアとサテライトの設計
※本稿は投資助言ではありません。株価・指標は2026年9月2日終値および同社の2026年3月期有価証券報告書・決算短信、2027年3月期第1四半期決算短信、中期経営計画(2024〜2026年度・見直し版)、関電工の適時開示・決算資料に基づきます。土地の時価および含み益は国土交通省の2026年地価公示・基準地価から所在地区分を推定して当てた推計値であり、実際の評価額とは異なります。実際の標準地は建物の敷地そのものではないため、幅を持った数字としてお読みください。受注残高は期末繰越工事高に第1四半期受注高を加え完成工事高を差し引いた推定値です。TOBの確率・想定価格およびシナリオ別の業績前提はいずれも当方が置いた仮定であり、特定の企業に買収等の計画があることを示唆するものでも、実現を保証するものでもありません。本銘柄は本稿執筆時点で当商会の保有銘柄ではありません。名証メイン単独上場の低流動性銘柄であり、想定どおりの価格・数量で売買できない可能性があります。投資はご自身の判断と責任でお願いします。









