「下値が堅い」とは、誰が買ってくれるかの話だ|インフレに強いディープバリュー11社を、清原式と大株主名簿で選り分ける——天馬と黒崎播磨は、この顔つきのまま買われて消えた【TOB・MBO×高配当】
🧑💼 「この1年で、うちが好きな顔つきの会社が2つ消えた。買われたんだ」
日向(見習い)「消えたって、倒産っすか?」
沼田「逆だ。高い値段を付けて買い取られた。株主は現金を受け取って、会社は市場からいなくなった」
🪦 第1章|買われて消えた2社
待伏「待ち伏せ担当の待伏です。事実だけ置きます」
🪦 2025年〜2026年に消えた会社 ・天馬(7958) … 創業家の資産管理会社FHLホールディングスが1株3,580円でMBO。買付は2025年3月17日〜4月28日で成立し、上場廃止 ・黒崎播磨(5352) … 親会社の日本製鉄が1株4,200円・総額約758億円でTOB(2025年8月1日発表)。買付は2026年2月2日〜3月3日、2026年3月30日に上場廃止 ・ラック(3857) … KDDIのTOBを経て2025年2月に上場廃止(前稿で確認)
堀田「モート担当の堀田だ。3社の顔つきは同じだった。安い。財務が厚い。そして、親会社か創業家がいる」
日向(見習い)「その3つが揃うと、買われるんすか?」
堀田「買う側の理屈で考えろ。親会社にとって、子会社の少数株主は邪魔だ。上場を維持する費用もかかる。子会社の現金を自由に使えないのも不便だ。だから買い取る」
待伏「創業家も同じです。株価が資産の中身より安いなら、自分の会社を安く買い戻せるということになります」
沼田「ここが今日の本題だ。『下値が堅い』というのは、値段が下がらないという意味じゃない。下がったら買い取ろうとする相手がいる、という意味だ」
守田「リスク担当の守田だ。だが釘を刺しておく。いつ買われるかは誰にも分からない。5年待つこともある。永遠に来ないこともある」
沼田「だから待っている間に配当が出ているかを見る。待ち賃のない待ち伏せはしない」

📏 第2章|5つの物差し
河内「割安発掘担当の河内です。インフレの時代に持っておきたい会社を、5つで測ります」
📏 今回の物差し ①値段を自分で決められる立場か … インフレで仕入れが上がったとき、それを売値に乗せられるか ②財布の厚さ … 清原式ネットキャッシュ比率=(流動資産+投資有価証券×70%−負債合計)÷時価総額 ③シェアの一次情報 … 会社自身が数字で書いているか ④配当 … 待っている間の待ち賃 ⑤買われる芽 … 大株主名簿に、買い取る動機のある相手がいるか
墨田「AIバックチェック担当の墨田です。先に線を引かせてください」
墨田「①について、今回は各社の『価格改定のお知らせ』を1件ずつは確認していません。だから『値上げした』とは書きません。見たのは値段を自分で決められる立場にいるかどうか、という構造だけです。商会の判断であって、事実の確認ではありません」
墨田「③は前回と同じやり方です。証券サイトの会社概要にある『最大手』『トップ』は採りません。有価証券報告書の本文に、会社自身が書いているものだけを○にします」
日向(見習い)「前回、21社中3社しか○が付かなかったやつっすね」
墨田「今回も同じでした。○は2社だけです」
🧾 第3章|11社の値札
夜見「財務分析担当の夜見です。清原式の厚い順に並べます。株価は2026年9月18日の終値です」
| 銘柄 | 事業 | 時価総額 | PBR | 利回り | 清原式 | 52週 | 買われる芽 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ツツミ(7937) | 宝飾品の製造と直営店 | 401億円 | 0.58倍 | 4.49% | 1.39倍 | 29% | 創業家 51.2%(関係者で77%) |
| 応用地質(9755) | 地盤・地質の調査 | 696億円 | 0.83倍 | 3.85% | 0.78倍 | 46% | アクティビスト 8.0% |
| フジオーゼックス(7299) | エンジンのバルブ | 185億円 | 0.55倍 | 3.00% | 0.77倍 | 34% | 大同グループ 51.1% |
| エスケー化研(4628) | 建築用の仕上塗材 | 1,567億円 | 0.76倍 | 1.80% | 0.77倍 | 45% | 四国興産 27.4%+自己株13.9% |
| リケンNPR(6209) | ピストンリング | 1,121億円 | 0.65倍 | 5.29% | 0.76倍 | 62% | 該当なし(信託銀行が中心) |
| 中北製作所(6496) | 船舶用のバルブ | 215億円 | 0.70倍 | 2.05% | 0.65倍 | 28% | 創業家系 11.5%+自己株8.9% |
| 日本農薬(4997) | 農薬 | 962億円 | 1.04倍 | 3.24% | 0.62倍 | 69% | 親会社ADEKA 49.0% |
| パイオラックス(5988) | 自動車用ファスナー | 626億円 | 0.63倍 | 5.44% | 0.41倍 | 49% | 自己株 34.1%+佐賀鉄工所13.1% |
| 日本精化(4362) | 化粧品原料 | 640億円 | 1.14倍 | 3.87% | 0.40倍 | 46% | 太陽鉱工 16.1%+自己株9.0% |
| カメイ(8037) | 石油・LPガスと食品卸 | 1,676億円 | 0.86倍 | 2.68% | 0.33倍 | 99% | 亀井系 約27%+自己株7.3% |
| 住友精化(4008) | 高吸水性樹脂とガス | 975億円 | 0.92倍 | 4.64% | 0.33倍 | 88% | 住友化学 30.0% |
夜見「52週の位置は、1年の値幅のどこにいるかです。0%が1年でいちばん安い所、100%がいちばん高い所を指します」
待伏「カメイは99%、住友精化は88%。会社の中身は良くても、1年の値幅の上限に張り付いています。今回は見送ります。ここで買うのは待ち伏せではなく、追いかけです」
河内「①と③の判定も置きます」
| 銘柄 | ①値段を自分で決められるか | ③シェアの一次情報 |
|---|---|---|
| ツツミ | ○ 自社ブランドの小売価格を自分で決める | × 有報にシェアの記載が見つからない |
| 応用地質 | ○ 公共の調査単価が毎年上がる(国交省の技術者単価) | ○ 「洋上風力発電事業における海底地盤調査では国内トップシェアを誇っております」と有報に明記 |
| フジオーゼックス | × 完成車メーカー向け。値段は取引先と決まる | ○ 「自動車部品事業においてはグローバルシェアを現状の8%から12%に拡大する」と有報に明記 |
| エスケー化研 | △ 建材。取引先は問屋・ゼネコン | - 今回は未確認 |
| リケンNPR | × 同上 | △ 「ニッチ分野にも強い有力サプライヤー」。数字は書いていない |
| 中北製作所 | △ 造船・プラント向けの個別見積もり | × 同上 |
| 日本農薬 | △ 農薬は流通を通す。自社開発品は決めやすい | △ 「市場シェアの拡大を図る」とあるが、自社シェアの数字は書いていない |
| パイオラックス | × 同上 | △ 有報にシェアの数字なし |
| 日本精化 | △ 化粧品会社向けの原料 | - 今回は未確認 |
| カメイ | ○ 石油・ガスは仕入れの変動を店頭価格に乗せやすい | - 今回は未確認 |
| 住友精化 | △ 化学品。市況と原料に振られる | - 今回は未確認 |
河内「シェアの数字を自分で書いていたのは、フジオーゼックスと応用地質の2社だけでした。ツツミも中北製作所も、有報には書いていません」
テック番長「ちょっと待ってくださいよ。宝石屋と農薬とバルブ? AIの時代に、成長がまったく無いじゃないですか。そんなものを持って何がうれしいんです」
沼田「番長。成長で持つんじゃない。①値段を付け替えられて、②財布が厚くて、⑤買い取りたい相手がいる。この3つで持つ」
テック番長「……それ、成長しない言い訳では?」
堀田「言い訳かどうかは、条件を書けるかで決まる。書けるなら規律、書けないならただの願望だ。最後にチェックリストにする」
💍 第4章|ツツミ——時価総額より、財布のほうが大きい
📐 ツツミ(7937・東証スタンダード) ・株価 … 2,564円(2026年9月18日終値、株探の確定値) ・時価総額 … 401億円 / PBR 0.58倍 / 予想配当利回り 4.49% ・清原式ネットキャッシュ比率 … 1.39倍(11社で唯一の1倍超え) ・流動資産 573億円 に対し、負債合計は 17.6億円 ・現預金 251億円(時価総額の63%) ・52週の位置 29% / 13週の位置 28%
夜見「先に構造を言います。この会社は、時価総額401億円に対して、現預金だけで251億円を持っています。そして負債の合計が17.6億円しかありません」
日向(見習い)「……借金が無いに等しいってことっすか」
夜見「そうです。残りの流動資産の中身は宝飾品の在庫です。直近の短信では商品及び製品が222億円あります」
堀田「ここがインフレの話につながる。在庫が金とプラチナと宝石だ。帳簿には買ったときの値段で載っているが、金の値段が上がれば、同じ在庫の価値は上がる」
花岡「配当・還元担当の花岡です。配当は60→80→115→予115円。利回りは4.49%。待ち賃としては十分です」
守田「悪い話も置く。営業利益は17→24→52→予40億円で、今期は減益の予想だ。金が高くなりすぎると、宝飾品は売れにくくなる。在庫の価値が上がることと、商売が儲かることは別だ」
待伏「⑤の芽は濃いほうです。創業家が51.2%を持ち、関係者を足すと約77%。市場に出ている株のほうが少ない。買い戻すなら、残りを取りにいくだけです」
守田「裏を返せば、少数株主は51%を持つ相手の判断に乗るしかない。値段を決めるのは向こうだ」
墨田「③は×です。ツツミは有報でシェアの数字を書いていません。『宝飾の最大手』と紹介する記事はありますが、会社自身の言葉ではありません」
🏭 第5章|親子上場の2社——黒崎播磨と同じ形
待伏「黒崎播磨が買われた形を、そのまま持っている会社が2つあります」
🔗 親子上場の2社 ・日本農薬(4997) … 親会社ADEKAが49.0%。時価総額962億円、PBR1.04倍、利回り3.24%、清原式0.62倍。営業利益は74→86→109→予115億円と伸びている。52週の位置は69% ・フジオーゼックス(7299) … 大同特殊鋼45.8%+大同興業5.3%でグループが過半。時価総額185億円、PBR0.55倍、利回り3.00%、清原式0.77倍、自己資本比率84.2%。52週の位置は34%
堀田「日本農薬は利益が伸びている。親会社から見れば、伸びている子会社の利益を100%取り込めるほうが良い。動機はある」
夜見「ただし52週の位置は69%です。すでに1年の値幅の上のほうにいます。PBRも1.04倍で、資産から見て安いとは言えません」
河内「フジオーゼックスは逆です。PBR0.55倍、自己資本比率84.2%、清原式0.77倍。値札は安く、財布は厚い。営業利益は16→26→25→予26億円で横ばいです」
墨田「③は○です。有報にこう書いてあります。『自動車部品事業においてはグローバルシェアを現状の8%から12%に拡大する』。会社自身の数字です」
守田「だが①は×だ。エンジンバルブの値段は、完成車メーカーとの話し合いで決まる。インフレを自分の判断で価格に乗せられる立場ではない。しかもエンジン部品だ。電動化が進めば、需要そのものが減る」
堀田「そこは見方が分かれる。減る市場から競合が先に抜けると、残った会社の取り分は増える。有報のシェア拡大の目標は、その読みだ。ただし『残存者になれる』という賭けであることは変わらない」
🏢 第6章|創業家・自己株・アクティビスト
待伏「⑤の芽は、親会社だけではありません。3つの形があります」
🌱 買われる芽の3つの形 ・大株主が非上場の関係会社+自己株 … エスケー化研(4628)。四国興産(有)が27.4%、自己株が13.9%。現預金1,043億円は時価総額1,567億円の67%。清原式0.77倍、自己資本比率84.3% ・自己株を買い続ける … パイオラックス(5988)。自己株が34.1%。利回り5.44%。清原式0.41倍だが、自己株を除いた時価総額で測り直すと0.62倍 ・アクティビスト … 応用地質(9755)。SFPバリュー・リアライゼーションが8.0%。清原式0.78倍、利回り3.85%
夜見「エスケー化研は財布が厚いです。現預金が時価総額の67%。ただし利回りは1.80%と低く、52週の位置は45%、13週では95%。直近3か月ではもう高い所にいます」
守田「パイオラックスは正直に言っておく。利益が急に細っている。営業利益は48→24→15→予15億円だ。そして自社株買いの資金を借入で賄っている。利回り5.44%は魅力だが、利益が戻らなければ続かない」
花岡「応用地質は配当の形が良いです。58→86→110→予110円。数年で2倍以上に増えています。アクティビストが入っている会社は、還元が強まる傾向があります」
河内「そして応用地質は、①が公的な数字で裏を取れる珍しい会社です」
📄 国土交通省「設計業務委託等技術者単価」 2026年3月から適用する単価は、全職種の単純平均で前年度比+4.3%。14年連続の引き上げで、平均51,715円と公表開始以来の最高値。
堀田「これは効く。公共の調査は、国が決めた単価がそのまま売上の単価になる。インフレが起きれば、翌年の単価に乗って戻ってくる構造だ」
墨田「③も○です。有報に『洋上風力発電事業における海底地盤調査では国内トップシェアを誇っております』と会社自身が書いています。分野を限った書き方ですが、数字ではなく立場の明言です」
待伏「ほかに、中北製作所(6496)は52週の28%と低い位置にいます。清原式0.65倍、PBR0.70倍、時価総額215億円。船舶・プラント用のバルブで、筆頭株主のミヤキタコーポレーション11.5%と中北姓の個人株主9.9%、自己株8.9%。小さすぎて動きにくい会社ですが、リストには残します」
夜見「リケンNPR(6209)は利回り5.29%と今回いちばん高く、清原式も0.76倍あります。ただし大株主が信託銀行中心で、買い取る動機のある相手がいません。⑤が空欄です」

🧭 第7章|買い方と、外れる条件
レバナス小猿「ウキッ。ちょっといいですか。TOB待ちって、何年かかるんですか? ボクは待てません」
待伏「分かりません。明日かもしれないし、5年来ないかもしれない」
レバナス小猿「無責任じゃないですか!」
待伏「だから待ち賃のある会社だけを選びます。利回り3〜5%なら、5年待つ間に15〜25%受け取れます。その間に買われれば上乗せが乗る。来なくても、配当は残ります」
沼田「小猿の茶々は確認項目だ。待ち賃が無い会社は、待ち伏せに使わない」
守田「サイズの話もしておく。この種の株は、動かない時間が長い。だから1銘柄に大きく張らない。動かない株ばかりでポートフォリオを埋めると、現金を先に使い切る」
🔍 この見立てが外れる条件 ① インフレが止まる。値段の付け替えが効かなくなり、在庫の含みも増えなくなる ② 親会社や創業家が、買い取らずに株を売る側に回る(需給が逆になる) ③ 買われても、値段が資産価値に届かない。51%を持つ相手が決める値段に乗るしかない ④ 利益が落ち続け、配当が減る。待ち賃が消える
日向(見習い)「番長の『成長がない』も、小猿の『待てない』も、条件に変わってるっすね」
沼田「そういうことだ。茶々は無料の査読だよ」
✅ 茶々から作ったチェックリスト ☐ 待ち賃(配当)が出ているか。利回りが3%を切る会社を、待ち伏せに使っていないか ☐ 財布の厚さを、自己株を除いた時価総額でも測ったか(パイオラックスは0.41倍→0.62倍) ☐ シェアは会社自身の言葉か。証券サイトの「最大手」で満足していないか ☐ 52週と13週、両方の位置を見たか。52週が9割超の会社を追いかけていないか ☐ 値段を自分で決められる立場か。決められないなら、買われる芽と財布の厚さで持つと決めたか
| 銘柄 | 営業利益(億円)直近3期→今期予想 | 1株配当(円) | 自己資本比率 |
|---|---|---|---|
| ツツミ | 17→24→52→予40 | 60→80→115→予115 | — |
| 応用地質 | 28→44→41→予42 | 58→86→110→予110 | — |
| フジオーゼックス | 16→26→25→予26 | 50→52→54→予54 | 84.2% |
| エスケー化研 | 121→124→122→予114 | 135→120→230→予180 | 84.3% |
沼田「最後にもう一度言う。下値が堅いというのは、下がらないという意味じゃない。下がったときに、買いたい相手がいるということだ。名簿にその相手がいるかどうかは、誰でも確かめられる」
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免責事項:本記事は投資助言ではありません。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。株価・指標は2026年9月18日終値時点(株探の確定値)。清原式ネットキャッシュ比率=(流動資産+投資有価証券×70%−負債合計)÷時価総額で、3項目は各社の最新の決算短信の貸借対照表から取りました。大株主の比率は株探の大株主ページ(各社の開示に基づく)、シェアの記載は各社の有価証券報告書の本文、技術者単価は国土交通省の報道発表によります。「値段を自分で決められる立場か」は当商会の判断であり、各社の価格改定の実績を確認したものではありません。天馬・黒崎播磨・ラックの事例は報道および各社の開示に基づきます。投資判断はご自身の責任でお願いします。










